ニノイ・アキノ国際空港で搭乗客への恐喝相次ぐ

職員が荷物に銃弾を混入か

出稼ぎ労働者は戦々恐々

 フィリピンのマニラ首都圏にあるニノイ・アキノ国際空港で、荷物から身に覚えのない銃弾が発見され、空港職員に恐喝される事件が相次ぎ、利用客を不安に陥れている。複数の職員が既に処分を受けているが、依然として似たような事件が続いており、再発防止を訴える声が強まっている。(マニラ・福島純一)

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ニノイ・アキノ国際空港第2ターミナルでのX線検査の様子=マニラ国際空港公団のホームページから

 これまで分かっている被害者は、ここ2カ月で少なくとも4人に達している。9月18日に米ロサンゼルスに向かうために第2ターミナルを訪れたフィリピン人女性は、X線検査の時にバッグに銃弾が入っていると警備職員に指摘され、500ペソ(約1200円)で解決すると持ち掛けられた。出発できなくなることを恐れた女性は現金を支払ったという。さらに9月17日には、国内線用の第4ターミナルからパラワンに向かおうとした米国人宣教師が、同じようにX線検査でバッグに銃弾が入っていると指摘され、見逃す代わりに3万ペソ(約7万7000円)を要求された。宣教師は警備職員が銃弾をバッグに入れたと主張し、支払いを拒否して逮捕。5日間拘置された後に保釈金を支払って釈放された。

 さらに10月に入っても似たような事件が続いており、25日には第2ターミナルで、荷物から銃弾が発見された2人の利用客が立て続けに逮捕されている。一人は帰国するために空港を訪れていた邦人男性で、X線検査を受けたところバッグの中に銃弾のようなものがあり、空港警察が手作業で確認したところ、シャツのポケットから2個の銃弾が発見された。もう一人は、家政婦として働くために香港に向かおうとしていた56歳の比人女性で、X線検査でバッグのポケットから銃弾が発見された。女性に関しては、事件直後に撮影された証拠写真の銃弾と、警察に提出された実際の銃弾の型式が一致しないことが判明し、翌日に証拠不十分で釈放された。

 一連の事件で最も戦々恐々としているのは、フィリピンの経済を支え続けている海外の出稼ぎ労働者たちだ。万が一、同様の事件に巻き込まれれば、出国を阻止され、仕事を失いかねない。海外からの帰省ラッシュが始まるクリスマスを前に、「銃弾混入」を恐れる出稼ぎ労働者の中には、帰国を取りやめる人々も出てきているという。このような事態を受けネット上では、早急な再発防止を求め、上院議員に調査を求める署名活動が展開され、既に数千人の署名が集まっている。国民の1割が出稼ぎで海外に渡っているだけに、今回の事件に対する国民の関心は極めて大きい。

 ノグラレス下院議員は、「ニノイ・アキノ国際空港は現政府にとって最大の汚点。フィリピンだけでなく世界の恥」と痛烈に批判した上で、「職員を上から下まで総入れ替えすべきだ」と政府に真剣な対応を求めた。

 これまでの事件で、複数の職員が処分を受けているが、指紋の検出や監視カメラの映像など、本当に職員が混入させたのか決定的な証拠は出ていない。銃社会のフィリピンでは、銃弾は一般市民にとっても珍しいものではなく、本人が知らない間に、偶然に混入してしまった可能性も否定できず、真相解明をより難しいものにしている。一連の事件は、銃社会の弊害とも言えそうだ。

 同空港では銃弾混入疑惑のほかにも、利用客へのチップの強要など、モラルが低い一部の職員による不正行為が後を絶たない。とりわけ出費が重なるクリスマスシーズンは、恐喝や強盗などの犯罪が増加する傾向があり、旅行者にとっては気が抜けない時期となっている。

 同空港は利用者の急増や施設の老朽化、サービス意識の低い職員などを原因とする不便さから、世界的な旅行者情報サイトのアンケートで、2011年から13年まで3回も「世界最悪」の空港に選ばれるなど、フィリピンの汚点として国民から批判を受けていた。その後、空港施設の改築工事などを進めた結果、ようやく今年のランキングでワースト10から抜け出すことに成功したばかり。しかし、一連の事件で再び評判を落としかねない状況に陥っている。