香港で国家安全法めぐり懐疑増長
中国返還18周年を迎えた香港では、1日、記念式典や記念イベントが盛大に行われる一方、中央政府の提出した普通選挙改正案を立法会(議会=70議席)が否決して廃案にしたことで民主派による大規模デモも行われ、二極化する困難に陥っている。同日、中国政府は台湾や香港も対象に含む中国国家安全法を施行したが、上海株式市場急落の影響を受ける香港は、政経とも中国依存を深めることへの賛否を問う来秋の立法会(70議席)議員選挙で政局のヤマ場を迎える。(香港・深川耕治、写真も)
中国株急落、香港にも暗雲
与野党 来秋の立法会選に照準
1日午前、香港中心部の湾仔(ワンチャイ)で恒例の国旗掲揚式が行われ、梁振英行政長官ら香港政府幹部や董建華中国人民政治協商会議(政協)副主席、中国政府の駐香港中央連絡弁公室(中連弁=旧新華社香港支社)の張暁明主任ら中国側要人も参加。返還18周年を祝う市民約2000人も参加し、政府要人にエールを送った。
同日、香港の民主化を求める大規模デモも行われ、香港に真の普通選挙を実現することを求めて梁振英行政長官の辞任や香港基本法の修正をスローガンに香港中心部を行進した。主催者(民間人権陣線)発表では4万8000人超が参加し、昨年の51万人より大幅に減少したが、若年層の参加者の割合は大きく変わっておらず、若年層の関心度は下がっていない。
一方、中国の全国人民代表大会(全人代)は1日、台湾や香港に対しても国家主権や領土統一を守ることを義務付けた「中国国家安全法」を採択し、施行された。同法は「中国の主権と領土保全に対する侵犯は決して許さない」とし、国家主権と領土を守ることは「香港、マカオ、台湾の同胞を含む全ての中国国民の共通義務だ」と規定している。
現時点で同法が香港で適用されるわけではないと説明し、実際の適用には香港基本法(ミニ憲法)第23条(国家安全条例の制定)を使って新たな立法措置が必要になる。梁振英行政長官は「関連法案を提出する計画は当面ない」と火消しに躍起だ。23条による国家安全条例制定の動きで猛反発を受けた董建華行政長官(当時)は中途辞任に追い込まれた過去があるからだ。
同法施行によって天安門事件追悼集会を主催している香港民主派の立法会議員(何俊仁議員、李卓人議員)らが中国本土に入境すれば中国公安当局から同法に抵触する疑いで拘束されるのではないかとの報道も流れ、懐疑論、不信論が広がっているが、香港基本法委員会の梁愛詩副主任は「国家転覆を謀る意図があるかどうかで決まる」と否定している。
経済も不安定だ。8日、上海株式市況は一時、8%超急落するなどアジア株式市場が軒並み下落。中国政府は中国人民銀の追加利下げなど株価てこ入れ策を打ち出しても、上海総合指数はこの1カ月で約3割も急落している。上海や深圳の株式市場では、自社株の下落を恐れる企業が相次いで証券取引所に自社株の売買停止を申請。8日時点の売買停止銘柄は1400を超え、全体の半数を超える前代未聞の異常事態となった。
8日の香港株式市場もハンセン指数が大幅に4日続落。終値は前日比1458・75ポイント(5・84%)安の23516・56に落ち込んだ。中国証券監督管理委員会は同日、「市場にパニック心理がある」と認め、機関投資家不在、個人投資家ばかりのいびつな株売買熱を放置した経済をコントロールする政府の手腕に疑問符が付く事態に陥っている。中国依存を強める香港だが、中国株の動向が香港株式市場を直撃し、アジアの金融センターとしての威信に暗雲が漂っている。
香港は普通選挙法案否決によって、中国が許容する香港市民1人1票による「普通選挙」導入は先送りされ、任期5年ごとの行政長官選挙は2012年の選挙に続いて「17年選挙も親中派が大多数を占める業界団体代表などで構成される選挙委員会による間接選挙で従来通り実施される」(呉秋北・全国人民大会香港代表)という。今後の中国政府の対応や民主派の出方が注目されている。
香港では11月、区議会選、来秋には立法会選が予定されており、どこまで民主派が議席を確保し、親中派による抑え込みに対抗できるかが、今後の香港政局のヤマ場になる。