比ミンダナオ和平、武装解除開始も前途多難

バンサモロ法案の審議難航

 このほどミンダナオ島を拠点に、長年にわたって反政府活動を続けてきた国内最大のイスラム武装勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)が、フィリピン政府との包括和平合意に基づき武装解除を行った。しかし、和平プロセスの最終段階となるイスラム自治政府の設立に必要なバンサモロ基本法案の審議が遅れており、残り約1年となっているアキノ政権での和平達成を危ぶむ見方も出始めている。(マニラ・福島純一)

和平プロセス完了、次期政権に持ち越しも

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政府との包括和平合意を歓迎するフィリピン南部ミンダナオ島の最大イスラム武装勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の戦闘員=2014年3月(AFP=時事)

 16日に武装解除を行ったのは145人のMILF戦闘員で、75丁の銃器が引き渡された。武装解除に応じた戦闘員には、社会復帰するための支援金として2万5000ペソ(約6万8000円)がフィリピン政府から支給される。今回の武装解除は第1段で、バンサモロ基本法案が議会で批准された後に、数千人規模の本格的な武装解除が4段階に分けて行われる見通し。MILFは約1万人の戦闘員を抱えていると言われており、今回の武装解除は象徴的なものにすぎない。

 武装解除の式典にはアキノ大統領と、MILFのムラド議長が出席した。式典のスピーチでムラド議長は、「この象徴的な武装解除への道は容易ではなかった」とMILF内部で依然として葛藤(かっとう)があることを明らかにした。その上で「バンサモロ基本法案が成立していないにもかかわらず、武装解除することは弱さの象徴だと考える人々もいるがそれは違う」「これはイスラムの人々への愛情と銃器に頼らない強さの証だ」と述べ、和平進展に向けたMILFの取り組みを強調。議会にバンサモロ基本案の審議再開を強く求めた。

 イスラム自治政府の設立に必要なバンサモロ基本法案は、今年1月に起きたMILFと警察特殊部隊の交戦で44人の警官が死亡したことを受け、MILFへの不信が高まり国会での審議が中断。イスラム自治政府の領域を決定する住民投票などのスケジュールが大幅に遅れており、アキノ政権下で武装解除が完了しない可能性も高まっている。

 仮にアキノ政権下で和平プロセスが完了しなかった場合、次期政権に引き継がれることになるが、来年の大統領選で政権交代した場合、現政府の方針がそのまま継続されるかは不透明だ。既にバンサモロ基本法案に関しては、上院議員の半数が違憲との見方を示しており、修正が施される可能性も浮上。基本法案の内容に変更が施されれば、MILFの反発を招くのは必至の情勢で混乱が予測される。

 気になる次期大統領選だが、民間調査会社のソーシャルウェザーステーションが6月19日に発表した世論調査によると、ポー上院議員が42%の支持を獲得して首位となり、前回まで首位を堅持していた野党のビナイ副大統領は34%で2位に転落。アキノ大統領の後継者と期待されているロハス内務自治省長官は、21%で3位と振るわない結果が続き、政権交代の可能性は依然として高いままとなっている。

 国民の期待が高まっているポー上院議員は、今のところ無所属で、依然として大統領選への出馬の意思を明確にしていない。与野党陣営にとって、ポー議員の取り込みが次期大統領選を左右する大きなカギとなっており、今後も駆け引きが続くとみられる。

 一方、ソーシャルウェザーステーションの別の世論調査によると、アキノ大統領への満足度が前回の47%から57%に回復した。前回の急激な満足度の減少には、MILFと警察特殊部隊の交戦で、警官44人が死亡した事件が影響した。今回の回復は、南シナ海での中国との対立をめぐり、日本との同盟関係を強化するなどの対応が国民に評価されたとみられている。アキノ大統領の任期は、残り約1年に迫っているが、最後まで指導力を発揮し、どこまで和平プロセスを前進させられるかに注目が集まる。