訪日したアキノ比大統領、安保分野での連携強化に期待

 フィリピンのアキノ大統領が国賓として日本を訪問し、天皇、皇后両陛下との懇談や参院本会議場での演説、安倍晋三首相との首脳会談などを行った。アキノ大統領は、一貫して南シナ海で岩礁の埋め立てなどで、実効支配の拡大を進める中国が国際的な脅威であると訴え、日本と軍事的な同盟関係を強化したい考えを強調した。(マニラ・福島純一)

自衛隊との交流活発化へ

中国の南シナ海進出に対処

700

共同宣言に署名し、握手する安倍晋三首相(右)とフィリピンのアキノ大統領=4日、東京都港区の迎賓館(代表撮影)

 3日に参院本会議場で演説したアキノ大統領はその中で、中国が行っている南シナ海で岩礁埋め立てなど実効支配の拡大をめぐり、「国際法で与えられた範囲を超えて地理的境界を書き換える試みにより、人々や物の自由な移動に依存している東アジアや東南アジアの繁栄が危ぶまれている」と強い懸念を表明。その上で、日本の国会で審議されている安全保障関連法案に関して、「最大限の関心と強い敬意を持って審議に注目している」「特に日本が平和維持のために国際社会で積極的な責任を果たすことに」と述べ、フィリピンとの連携強化に期待感を示した。

 また4日に行われた安倍晋三首相との会談では、日比共同宣言が発表され、その中で両国首脳は、南シナ海で行われている中国による実効支配の強化拡大に対する強い懸念で一致。南沙諸島で行われている岩礁の埋め立て行為を「一方的な現状変更の試み」と指摘し、国際法に従った平和的な問題解決の重要性を強調した。また、両国間で防衛装備や技術の移転を可能にする協定に関して交渉を開始することで合意し、安全保障分野でさらに連携を強化する方針を打ち出した。

 アキノ大統領は5日の記者会見で、訪問軍地位協定(VFA)を日本の自衛隊に適用することを協議する方針を示した。VFAは外国の軍隊の訪問手続きを簡略化し、航空機や艦船がフィリピン国内の施設で補給を可能にする協定で、現在は米国とオーストラリアが締結している。この協定により米軍は、南部のテロ対策の名目で事実上の駐留を行っている。将来的に日本とVFAが締結されれば、自衛隊の航空機や艦艇がフィリピン国内の基地で補給を受けることが可能となり、その行動範囲を南シナ海などに広げることが容易となる。

 現在、フィリピン国内では、比米両軍による大規模な軍事演習「バリカタン」が毎年行われ、今年は過去最大規模となる約6000人の米軍兵士と、約5000人のフィリピン国軍兵士が参加し、中国を強く牽制(けんせい)する内容となった。日本の自衛隊も参加しているが、現状ではオブザーバーとしての視察だけにとどまっている。VFAが締結されれば、自衛隊が米軍と同じく軍事演習に参加するなど軍事的交流を活発化し、戦略的パートナーとして同盟関係を強化することが可能となる。しかしVFAをめぐっては、核兵器の持ち込みや、米兵が起こす犯罪などをめぐって、見直しを求める声も高まっており、議会の承認がすぐに得られるかは不透明だ。

 また日本政府は、政府開発援助(ODA)で、フィリピンの沿岸警備隊に10隻の巡視船を供与する。船は中古ではなく新造されるもので、既に日本の造船会社に発注し、来年8月から納入が始まる見通し。日本と同様に海に囲まれた島国のフィリピンだが、政府の慢性的な予算不足などの事情で、領海を監視する船舶が圧倒的に不足している。物量作戦で南シナ海の実効支配を強める中国に、まったく太刀打ちできない状況が続き、岩礁の埋め立てが横行する一因ともなっている。巡視船の供与は、これまでにない具体的な支援であり、今後もさらに踏み込んだ内容の支援が求められそうだ。

 アキノ大統領の任期は2016年6月までと、約1年を残すのみとなっている。すでに国内では次期大統領選をめぐる与野党の攻防が活発化しているが、現状では野党のビナイ副大統領が支持を集め、政権交代の可能性も浮上している。次期政権でも引き続き両国の良好な協力関係を維持することが望まれる。