中南米の新貿易ルート狙う中国

インフラ建設で浸透強化

 昨年7月の習近平国家主席歴訪に続き、中国の李克強首相は18日から26日まで中南米4カ国を訪問し、インフラ投資で関係を強化して浸透を図っている。キューバとの国交回復交渉を進める米国が中南米で拡大する親中路線を親米に引き戻そうとする米中争奪戦に乗じ、「米国の裏庭」と呼ばれる中南米各国は両天秤(てんびん)外交でインフラ整備と資源開発による巨額投資を引き出そうと外資獲得に重点を置いている。(香港・深川耕治)

南米横断鉄道に不安材料も

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19日、ブラジルの首都ブラジリアで記者会見するルセフ・ブラジル大統領(右)と李克強中国首相(Marcelo Camargo/Abr)

 李首相は26日まで、ブラジル、コロンビア、ペルー、チリの4カ国を訪問し、「共通利益の保護、促進のために南米投資を着々と進める」と今回の歴訪で中南米への影響力拡大に手応えをにじませた。習近平主席が昨年7月、ブラジル訪問で南米大陸横断鉄道構想を含む250億㌦(約3兆円)規模の投資基金を約束しており、施策実務約束の再確認と具体化を明確化する外交戦略だ。

 19日、最初の訪問国ブラジルの首都ブラジリアでルセフ大統領と会談した李首相はエネルギー、農業、鉱業、インフラ建設分野への投資など35項目、総額530億㌦(約6兆4000億円)の合意文書に署名。来年、ルセフ大統領が訪中することも明らかにした。大西洋側のブラジル南東部からアンデス山脈を越えて太平洋側のペルーまでを5300㌔でつなぐ南米大陸横断鉄道の調査費も含まれており、ブラジル側は鉄道建設計画への中国の参加を「アジアへの販路が開かれ、距離が縮まる」(ルセフ大統領)と歓迎している。

 中国側は見返りに牛海綿状脳症(BSE)の影響で輸入禁止措置だったブラジル産牛肉の輸入再開が決定。中国の航空会社がブラジル企業から10億㌦分の航空機を購入することや中国がブラジル国営石油会社に100億㌦を投資することも決まった。中国は経済低迷が続くブラジルへの貿易浸透度を深化させている。

 21日、コロンビアの首都ボゴタでサントス大統領と会談し、経済技術協力、教育、通信、インフラ建設、輸送、観光、農業などに関する合意を行った。

 22日、ペルーのウマラ大統領と会談した李首相はインフラ整備や品質検査、航空宇宙飛行開発などで協力協定を交わし、南米大陸横断鉄道の実現性についても検討開始に合意した。ウマラ大統領は「ペルー、中国、ブラジルの経済協力関係を強化できる」と表明し、鉄道敷設へ積極支持を表明している。

 南米大陸横断鉄道はリオデジャネイロに近い大西洋沿岸からアンデス山脈を抜けてペルーまでを結ぶ約5300㌔の壮大な鉄道建設だが、建設にはアマゾン奥地の密林を無理やり切り開く環境破壊への反発や先住民族の問題など多くの難題を残す。22日、李首相も「鉄道建設には生態系保護が不可欠だ」と話しており、地元や国際的な非難を受けない形で鉄道建設を進める構えだが、調査や期限の引き延ばしも不安定要因として横たわっている。

 回避策としてペルー南部の砂漠地帯を通るルートやボリビアルートも検討されている。中国が今後、中間層が増えての肉の需要増を見越し、家畜の餌となる穀物供給を中南米から輸入していくには同鉄道の実現が求められる。

 技術面でも見通しは立っておらず、同鉄道の総事業費は50億~120億㌦という曖昧過ぎる概算しか打ち出していない状態で「中国の技術力だけでは環境保護ができず絵に描いた餅に終わる可能性もある」(香港紙「りんご日報」)との批判もある。中国鉄建が昨年11月、44億㌦で落札したメキシコ初の高速鉄道建設契約が1月末に取り消され、プロジェクト自体が棚上げされたケースもあり、先行きは楽観できない。

 中国としては南米横断鉄道はブラジルから中国への主要輸出品目である鉄鉱石、大豆の産地を通るルートのため、早期実現を目指したいところだ。太平洋と大西洋を往来する際、米国の影響が強いパナマ運河を回避するルートを積極的に模索してきた中国は、台湾と国交があるニカラグアで中国系香港企業を通して全長約278㌔のニカラグア運河を「第二のパナマ運河」として2019年完成をめざして建設着手しており、南米大陸横断鉄道も同様の手法であり、パナマ運河回避の悲願となっている。

 中国が中南米進出を強めたきっかけは、1990年代以降、反米左派政権が次々と樹立され、米国の影響力が弱まり、すかさずインフラ建設の得意な中国の国有企業が海外進出できるよう手を差し伸べたことにある。

 今後、中南米での米中争奪戦で注目されるのがキューバの動きだ。半世紀にわたる米国の経済制裁を受けてきたキューバは冷戦終結まではソ連、その後はベネズエラと中国に依存する大きな偏重があり、昨年末、ようやく米国との国交正常化方針を打ち出した。今年1月には中国がキューバ東部のサンディアゴデクーバで工業団地とコンテナ物流基地を造る目的で中国資本による港湾工事を始め、米中を競わせる形でインフラ整備と資源開発、米国への進出をしたたかに売り込んでいる。