日暮れて道遠いミャンマーの改憲
大統領目指すスー・チー氏
最大の障害は資格規定
ミャンマーのテイン・セイン大統領は10日、首都ネピドーの大統領官邸で、最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首らと憲法改正問題など協議した。同協議にはテイン・セイン大統領とスー・チー氏のほか、ミン・アウン・フライン国軍総司令官に上下両院議長、少数民族代表の4人が加わり、次回は今月下旬の開催が約束された。今年11月に予定される総選挙でスー・チー氏率いるNLDが優勢と見込まれているものの、現行憲法には家族が外国政府の影響下にある人物に大統領の資格を認めない大統領資格を定めた59条の規定があり、英国籍の息子2人がいるスー・チー氏の出馬の最大の障害となっている。(池永達夫)
2年前の春、日本を訪問したスー・チー氏は、都内の日本記者クラブでの記者会見で、今後憲法改正を実現した上で、2015年の次期総選挙に勝利し、大統領就任を目指す考えを鮮明に示した。
11月の総選挙でNLDは圧勝に近い議席を確保する見込みだ。2年前に行われた上下両院および地方議会の計45の選挙区で行われた補欠選挙で、43の選挙区で議席を取ったNLDの支持層の厚さからすると無理のない観測だ。
ただNLDの悩みは、選挙に勝利しても党首を大統領に就かせることができない憲法のしがらみにある。
同国の大統領は議会の投票による間接選挙で選ばれるが、現行憲法には外国籍の家族を持つ人は大統領にはなれない規定があるからだ。スー・チー氏が就任するには憲法改正が不可欠だが、改憲には75%超の国会議員の賛成と国民投票での過半数の賛成が必要となる。スー・チー氏にとって最大のハードルは、4分の3を超える国会議員の承認だ。
というのも2008年の軍事政権時代に制定された現行憲法には、国会の全議席の4分の1を国軍が指名した軍人議員に与える規定があり、国軍議員の1人でも反対に回れば改憲は頓挫するからだ。
ただ上意下達の組織的体質を持つ国軍のトップを口説き落とすことに成功し、改憲への合意を取り付ければ、国軍議員全員をごっそり改憲賛成に手を挙げてもらうことも可能だ。
5月までに改憲への道筋を付けたいと意気込んできたNLDにすれば次の6者協議がラストチャンスとなる。
ただ、柔軟で開明的とされるテイン・セイン大統領だけでなく、保守派の多い国軍を束ねる国軍司令官を説き伏せるには並大抵のバーゲニングパワーでは不可能だ。
テイン・セイン大統領は先月の英メディアとのインタビューで「59条は中国やインドなど隣国から主権を守るため制定されたもの」とその必要性を強調し、ミン・アウン・フライン総司令官も先月の国軍記念日演説で「憲法の基本原則を守るため、影響力の行使と監視を続ける」と改憲へ賛同するそぶりは微塵(みじん)も見せることはなかった。
そもそもテイン・セイン大統領やミン・アウン・フライン国軍総司令官などが6者協議に参加したのも、改憲協議への真剣な討議に加わるというより、対話姿勢を示すことで国際世論の理解を得るアリバイ作りの側面が強い。
こうした後ろ向きの政府や軍を牽制(けんせい)するため、スー・チー氏は今月初旬「憲法が改正されなければ、今秋に予定される総選挙のボイコットも一つの選択肢になる」との認識を示した。
1945年6月19日生まれのスー・チー氏は、間もなく70歳を迎える。今回の総選挙を逃せば、次回の総選挙は2020年11月となる。その時は、スー・チー氏は75歳になっている。それから5年任期の大統領の執務をこなすのは無理がある。
スー・チー氏にしてみれば、今年11月の総選挙が最後のチャンスだと覚悟している。