行政長官と民主派、「香港独立」めぐり舌戦

 昨年9月から79日間続いた雨傘革命がようやく収束した香港では立法会(議会=70議席)で梁振英行政長官の施政方針演説を皮切りに香港独立論に対する舌戦が民主派と親中派の間で展開されている。親中派からは中央で審議中の国家安全法の香港適用を提唱する案も出ており、中国からの独立か隷属かとの急進論に親政府派は否定的な動きを見せるしかないスタンスだ。(香港・深川耕治)

『香港民族論』注目集め増刷

親中派、国家安全法の適用提唱

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本紙のインタビューに答える呉秋北氏

 14日、立法会で就任後3回目となる施政方針演説を行った梁振英行政長官は、香港で真の普通選挙を実現するために幹線道路を占拠した学生団体を非難するため民主派議員と激しい論戦を展開した。

 施政演説では一国二制度下の高度な自治について「香港基本法に従えば、政治の最終決定は香港ではなく中国にあり、絶対自治ではない」と限定的な自治であることを強調した。香港大学学生会の会報『学苑』(2014年2月号)にある「香港民族の命運は自ら決める」や13年に発行した書籍『香港民族論』が香港独立を主張していることを挙げ、「占拠行動を起こした学生リーダーを含む学生らの間違った主張を警戒しないわけにはいかない」と指摘。「民主を追求するには法を順守しなければ無政府主義になる」と批判した。

 15日、立法会での答弁で民主派(工党)の李卓人議員が「行政長官の学生刊行物批判は毛沢東が知識人を言論弾圧した文化大革命のように香港で新たな文化大革命を起こして一国二制度が崩壊するまで抑圧するのか」と問いただすと「言論の自由は第三者の考え方に対して意見を述べる自由。17年の政治体制改革を支持しなければ普通選挙を抹殺するのはあなたの方だ」と応戦。

 公民党の梁家傑議員は「学生たちは香港独立を支持しているわけではないのに行政長官が自らの政治的地位を強固にする意図で香港独立問題を誇張している。これでは施政報告が政治闘争綱領に変わったようなものだ」と批判したが、梁行政長官は「あなたこそ香港独立を支持しているのではないか」と反論。立法会での行政長官を中心とする親政府派と民主派の論戦は激しさを増している。

 施政報告で名指し批判された『香港民族論』は書店への問い合わせ注文が殺到したことで、出版元の香港大学学生会は3000部の増刷を決めており、行政長官にとっては皮肉な結果だ。

 香港大学の最新世論調査によると、梁行政長官の過去3回の施政報告の中で今回の評価は最低(100点中49・5点)で支持率低迷にあえいでいる。

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香港大学学生会の出版した香港民族論は3000部の増刷に

 中国の李源潮国家副主席は21日、華僑関係の会議で昨年の香港で起こった幹線道路占拠デモについて「デモを封じ込める闘争はまだ終わっていない。青年中心に参与したデモ行為は警鐘を鳴らす教訓になり、闘争継続を支持する」と述べている。

 中央政府の露骨な政治的干渉にアレルギー反応を起こす形で『香港城邦論』などの著作がある陳雲嶺南大学助教授が中心となって香港独立論がごく一部で浮上していることに対し、親中派は強い警戒感を抱いている。

 特にその急先鋒(せんぽう)に立っているのが「国家安全法」の香港での適用を提唱した全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の呉秋北・香港代表だ。呉氏は19日、「香港基本法23条の立法化(国家分裂罪などを新設する国家安全条例制定)が完了するまでは国家安全法を適用すべきだ」と述べ、民主派のみならず、親政府派からも反発を招いた。

 中国で1994年に施行された国家安全法は、反スパイ活動をさらに規範化する反スパイ法として改正審議中で、同法が改正施行される際、香港での適用を求めるため、呉氏らは全人代開催中に代表30人の署名を集める準備を進めている。

 同法では、国家安全に危害を与える可能性がある事態に対しては、国家安全機関が改善の要求をすることが可能で、改善拒否や改善後の要求を満たさなかった場合、封鎖や差し押さえの強制力がある極めて厳しいスパイ摘発法だ。

 だが、梁振英行政長官は20日、「中国の国家安全法を香港で適用する検討・準備はしておらず、香港基本法23条の立法化着手も計画していない」と明言。「香港基本法23条を立法化する方が国家安全法による厳しい刑法を適応するよりも香港にとって有利」(香港基本法委員会メンバーの譚恵珠氏)などの意見が大勢を占め、新政府派の葉劉淑儀(レジーナ・イップ)新民党主席も「国家安全法の香港適用よりも23条の立法化が妥当」と否定的立場だ。

 一方、董建華・元行政長官は「香港基本法23条は適当な時期に立法化する必要がある。中央政府は国家安全法を含む中国本土の法律を香港でも適用する権利がある」と述べ、中央や親中派の本音を代弁した形だ。

 香港は「世界の暮らしやすい都市ランキング」(ECAインターナショナル)で前回の17位から33位に転落(1位シンガポール、2位アデレード、3位シドニー、4位大阪の順)。「幹線道路の占拠デモが評価を下げる要因の一つで今後数年間の上昇は見込みにくい」(ECAアジア担当者)としている。