沖縄と台湾「琉中の絆」

“隣”感覚で“新市場”創出

中琉文化経済協会 謝國棟理事長に聞く

 台湾(中華民国)は10月10日、1911年の辛亥革命から数えて、今年で103回目の国慶節を迎えた。台湾と日本はその間、友好関係を維持し、さまざまな分野において緊密な交流を図っている。そうした中、台湾に最も近い沖縄と台湾の友好交流を促進する組織として、台湾側には中琉文化経済協会があり、沖縄県には、中琉協会(國場幸一会頭)がある。中琉文化経済協会は、台湾にあっても重要な役割を担って沖縄との交流を50年余にわたって存続しており、このたび、“若き理事長”として謝國棟氏が新しく理事長に就任した。沖縄との一層の交流促進などについて謝理事長に聞いた。(聞き手=ジャーナリスト・山口芳弘)

500

謝國棟氏

 ――中琉文化経済協会理事長に就任されたが、中琉文化経済協会との出合いは?

 前任の蔡雪泥理事長から指導を受けました。それまでも、沖縄には関心があり、何度も訪問している。沖縄に深く関係した陳重光先生の子息である陳丙甫さんとも友達です。

 ――沖縄に長期滞在する時は新都心に住んでいたと聞いていましたので、既に“沖縄通”ですね。

 組織交流となると全く別だと思っている。ましてや、これまで理事長に就任された人は台湾を代表される人たちで、特に蔡前理事長の功績は大きく、沖縄の多くの人に敬愛されている。少しでも近づけられるよう、私らしい“友好と交流”に取り組んでいきたい。

 ――“台流”(台湾的な新しい文化)的交流を発揮するのですね。

 この協会が誕生した要因は、政治的であったようだが、蔡前理事長就任で、まず婦人交流が活性化した。これは意義がありました。教育者だけに、文化、教育、音楽など“台湾の文化面”を通した活発な人的交流は“台湾の新しい時代”を沖縄に紹介しました。

 ――謝理事長の時代は。

 “台湾の変化”そのものを感じますね。それは“沖縄の変化”にもつながっていると思う。私はまだ若輩で、政治的、社会的に台湾を代表する程の資格はありません。しかし、現在の台湾と沖縄の交流を見ると“若者の交流”が必要だと思っている。政府も「日台青年交流」を実践しようという方針で、文化、スポーツ、音楽などエンターテインメント型交流促進が求められているようだ。

 ――先日、台湾文化局の人と話し合いました。台湾は“中華文化”の継承も大切だが、“台流”を若者が発信していると聞いた。台湾も変化してきましたね。

 台湾の若者は、あらゆる面で“創造性”が豊かに成長している。ファッション、映画、芸術の世界にも変化が見えており、そうした事が産業界でも見ることができる。

▽沖縄にプロ野球チームを編成し、台湾リーグに

 ――40年間も台湾に通っているが、その変化に驚いている。そうした“変わる時代”の中で、台湾と沖縄の航空業界の“オープンスカイ”が進んでいるが。

 航空会社には中華航空をはじめ、子会社の華信、復興、ピーチがあるが、航空路線も那覇-台湾(桃園)だけだったのが、今では台東の花蓮、台中に就航している。沖縄の石垣島との間にも通年運航が考えられている。台湾の高雄は“第2の都市”として注目されているが、自然と文化も“観光地”として成長しているので、“沖縄-高雄直行便”も必要だ。

700

謝國棟理事長が董事長総経理を務める大魯閣グループが高雄市で現在建設を進めているカーサーキット

 ――今年は、台湾から沖縄への観光客は30万人になろうとしている。台北市内の松山空港からの沖縄便も進めていこうとしているが。

 そうです。松山空港から沖縄に行けるようになったら、画期的になるでしょう。“沖縄がすぐ隣りにあるような”感じになります。協会は台湾と沖縄の交流促進を重点にしているが、日本各地から沖縄には600万人が観光で来ている。そのうち、沖縄を経由して、“台湾にも行ってみよう”と気軽に来てもらうことにもつながると思う。“奥座敷”と云う言葉がありますが、沖縄の奥座敷が台湾であれば、台湾に来る観光客にも台湾の奥座敷として沖縄を紹介できる。台湾と沖縄が連携することで、新しい市場が生まれる。

 ――台湾には現在、300万人に近い大陸からの観光客がいる。やがて、この人たちも、沖縄を経由して中国各地に戻る。そんな“三地”の関係ができると面白いですね。

 台湾と沖縄の“新しい時代を創る”発想が生まれる。当然、沖縄にもホテル、観光事業の進出があって、一層の観光産業を中心に発展する。

 今、「沖縄にプロ野球チームが誕生して、台湾のリーグに加入してもらっては」との構想がある。沖縄の発展を“愛情”をもって考え続けている台湾企業交流団体「中華民国三三企業交流会」(三三会)の江丙坤会長もこの提案を支持している。

▽自らの企業グループで日本、沖縄の懸け橋を

 ――謝理事長を支えている「大魯閣企業集団」とは。

 1973年に創業された大魯閣繊維を軸に事業拡大を進め、紡績、教育、建築、運動施設事業にも取り組み、上場した大魯閣繊種を中心に企業集団を構成した。2011年から事業の柱をSCの開発、運営、管理を行う子会社、「大魯閣開発」を設立した。私は副理事長ですが、基創実業総経理として“スポーツ、レジャー”産業の開発を積極的に取り組んでいる。

 ――『台湾の大手レジャー企業、大魯閣グループが日本の「鈴鹿サーキット」と提携!』と日本のマスコミにも紹介されたが。

 高雄市に「鈴鹿サーキット」のオリジナルアトラクションやソフトが生かしたレジャー施設「SUZUKA CIRCUIT PARK」大魯閣草衛道の開発計画を進めている。

 ――日本企業との連携が成長の鍵となり、日本と台湾の懸け橋の役割を担うところになりますね。台湾にとって、“中国をも視野に入れた事業”に発展しますね。

 ありがとうございました。

(10月8日に那覇市内で開かれた「双十国慶節」には、両地域から約800人が集い、交流と親睦が深めた。謝理事長はパーティー会場をくまなく歩き、仲井真弘多知事ら県の政財界の人と、また県内在住の華僑の人と談笑する姿が目立った)

経済交流の活性化を支援

中琉協会会長 國場幸一氏に聞く(沖縄県商工会議所連合会会長)

200

國場幸一氏

 台湾側の中琉文化経済協会のカウンターパートナーとして、沖縄には「中琉協会」(那覇商工会議所内)があって、40年余りにわたって県内経済界の交流の活性化を支援してきている。台湾の中琉文化経済協会は、政治的な支援を含めて沖縄にエールを送っている。

 台湾と沖縄の人的交流は、台湾の訪日未経験者19%、訪日経験者(1回)27%が沖縄を「行ってみたい観光地」に挙げた。また、訪日経験者(2回)の52%が沖縄への再訪意欲を示し、好感度が極めて高い。

 このたび、中琉文化経済協会理事長に就任した謝國棟氏は、沖縄で開催された国慶節にも参加され、“新しい交流”が始まっている。

 今年3月、台湾の「中華民国三三企業交流会」(三三会、理事長・江丙坤、66社)関係企業を沖縄に招待、沖縄への投資を奨励しており、いくつかは実現しつつある。沖縄が台湾経済界からみて投資環境にあるとなれば、沖縄経済はアジアに飛躍する好機でもある。台湾は中国との間でECAFAを結び、経済を発展させている。この点を沖縄は“台湾に学ぶ!”とするところもあるようだ。謝氏の理事長就任を歓迎し、今後とも一層の交流活性化に取り組みたい。

台湾からの沖縄投資を牽引

中華民国三三企業交流会

600-1

沖縄訪問を記念して安里昌利沖縄県経営者協会会長(右)から琉球漆皿を贈られた江丙坤・中華民国三三企業交流会会長=3月10日、那覇市内のホテル

 台湾大手企業の代表らでつくる中華民国三三企業交流会(三三会、66社)理事長の江丙坤氏は、この春、来沖し、「沖縄が投資環境にあるか」を視察、「沖縄の製造業への投資は難しい。台湾に比べて人件費が高く、法人税も高い。だが、現在台湾から日本への観光客数は年間約221万人、うち沖縄への観光客数が年間23万人で、全体の約10%強を占める。今後台湾からサービス産業や観光業への投資は非常に可能性が高い」と語る。

 その一方「台湾は中国と経済協力枠組み協定(ECFA)を締結しており、85%の物品の関税が軽減される。日本・沖縄の企業が台湾で工場を設置すれば、中国に輸出する場合、メリットが出てくる」と続けた。

 江氏は、台湾中国信託商業銀行が買収した東京スター銀行の会長に就任、東京スター銀行は中国信託と提携してアジアでの事業を拡大する意欲がある。

 江氏は、これまで沖縄を何度も訪れ、沖縄の新しい経済性を熟知、沖縄の建築業最大手の國場組(國場幸一社長)などとの関係も深く、“沖縄投資”も視野に入れている。

観光で躍進する人的交流

700-1

沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB、上原良幸会長=右)は11月26日、台湾観光協会(頼瑟珍会長=左)と観光誘客や観光人材育成などで協力する相互協定を締結したと発表した

 台北駐日経済文化代表処那覇分処の蘇啓誠氏は、「沖縄に来県した外国人観光客は55万人で、台湾人が約43%に当たる23万人を占め、対前年度比で約68%増という大躍進を遂げた」と語る。

 沖縄側も2011年11月の日本と台湾の航空自由化(オープンスカイ)協定を受けて、中華航空以外に遠東航空、華信航空、復興航空に沖縄への就航を依頼した。

 昨年完成した新石垣空港は、新国際線ターミナルも開業して、受け入れのインフラ整備も進んだ。「台湾と沖縄の交流は第2ステージに入った。沖縄は落ち着く所で、食べ物などは素朴だが、全て独特な魅力がある。日本国内での台湾人のレンタカー利用が07年から可能になり、旅行形態も団体から個人客へ変わりつつある」と、中華航空副社長の張志潔氏は沖縄観光の現状について語る。

 「那覇―台北線では、日本人客と外国人客の割合は約3対7。13年は円安などの影響で日本人利用客がさらに2割に下がった。日本人客の利用増に期待する」と続けた。

広い分野で双方向の交流促進を

台北駐日経済文化代表処 那覇分処処長 蘇啓誠氏

200-1

蘇啓誠氏

 昨年12月に二度目の沖縄勤務となった蘇啓誠氏は、2006年から約1年半、領事部長として那覇に赴任、華僑関係の業務や台日間の漁業紛争、地方自治体同士の交流事業などを担当した。今回は処長として勤務。「より重い責任を負わされているため、身の引き締まる思いがした」と着任当時を振り返る。

 この1年、「沖縄への観光客が昨年の23万人から30万人と予想される」ことが同氏の実績を物語る。「双方向の交流が必要である」と唱える蘇氏は、修学旅行や留学生交換のほか、スポーツ、音楽など文化交流の一層の促進に加え、「今後は、経済交流も『互いの市場性』を生かして活発化することが重要」と語る。

 「在任中、沖縄と台湾の『琉中の絆』が広い分野でもっと強まるのでは」と目を輝かせた。