中国の台頭顕著なフィジー、都内で太平洋島嶼国シンポ

 太平洋島嶼(とうしょ)国の動向をテーマにしたシンポジウム(フィジー大使館・笹川平和財団共催)が11月27日、都内で開催された。鮮明に浮かび上がったのは太平洋島嶼国に出てきている中国の台頭とわが国の援助の深化が課題となっていることだった。(池永達夫、写真も)

経済支援で影響力増大

日本の援助深化で歯止めを

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イシケリ・マタイトガ駐日フィジー大使

 広大な西太平洋には32の国・地域が散在する。ミクロネシアやパプアニューギニアなど広大な国土を有する国もあれば、日本の新島規模でしかないツバルなど多様性に富む地域だ。

 この西太平洋島嶼国への影響力を急速に増しているのが21世紀に入り、西太平洋の島国への援助外交に力を入れている中国だ。

 とりわけ顕著なのがフィジーだ。

 中国は2006年にフィジーで初めて「中国・太平洋島嶼国経済発展協力フォーラム」を開催し、温家宝首相(当時)が3年間で総額約30億元(約420億円)の借款供与を表明した。同年にはフィジーで軍事クーデターが起きたばかりで、制裁に動いた豪州とは対照的に豪・フィジー関係が冷え込んだ隙を突いた進出だった。以後、フィジーには中国が港湾建設などインフラ投資を積極的に行っている。ちょうど、ミャンマー軍事政権に制裁を科した欧米とは反対に、中国は1988年以後、援助の手を伸ばし関係強化に動いた経緯と重なる手法だ。

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ガブリエル・ドゥサバ駐日パプアニューギニア大使

 さらに11月下旬には習近平国家主席がフィジーを訪問。フィジーで同国のバイニマラマ首相ら中国と国交がある太平洋の島嶼国など8カ国の首脳と会談し、経済支援強化の方針を示した。太平洋諸国との経済的関係を強化し、政治的影響力と安全保障面での存在感も高めることで、西太平洋を自らのテリトリーの下に置くという長期戦略に基づいた布石の一手と考えられる。

 広大な排他的経済水域(EEZ)を持つ西太平洋の島嶼国には、漁業資源のほかレアメタルの海底資源が豊富とされる。中国が権益を持つ中南米の資源国からのシーレーンにも位置し中国にとって西太平洋島嶼国は戦略的要衝の地でもある。

 シンポではマイケル・オーキーフ豪ラ・トローブ大学研究所副所長が「援助のパラダイム変革が起きている。(日本など)古き友人の力が相対的に低下し、太平洋諸島には中国やロシア、中東などのニュープレーヤーの台頭が顕著だ」と指摘。その上で同副所長は「新しいプレーヤーである中国は、港湾整備や道路建設といったインフラ中心の援助だが、病院や学校建設、さらに教育や医療の人材育成などのニーズは高く、古き友人たちの出番は十分にある」として、援助額を増やせない制約条件があったとしても日本や豪州が手持ちのカードを行使して、急速に増大しつつある中国の影響力に一定の歯止めを掛ける手法を提言した。

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マイケル・オーキーフ豪ラ・トローブ大学研究所副所長(左)と北野貴裕・北野建設社

 また在東京ソロモン諸島名誉領事を務める北野貴裕・北野建設社長は「企業とすればインセンティブがないとリスクがマネージできない。そのための投資環境の整備が必要だ。それでも出る企業というのは短期的利益を求めざるを得ないから、乱獲、乱開発のリスクが生じる」とした上で「天然資源や人的資源開発を含めて、オールドフレンドが一番分かっている」と日本企業の進出を促した。

 そしてフロアから出た「パプアニューギニアは太平洋島嶼国と連帯していくのか、ASEAN(東南アジア諸国連合)に行くのか」との質問に対し、ガブリエル・ドゥサバ駐日パプアニューギニア大使は「政府方針として、パプアニューギニアはメラネシア国家であり太平洋島嶼国だ。ただ、アジアとも協力していく。そのため、ASEANを一つのオプションとしつつ、太平洋諸島フォーラム(PIF)重視に変わりはないものの、アジアと太平洋島嶼国をつなぐ橋でもありたい」と述べた。

 一方、フロアからの「アボット政権が誕生したが、外交政策は変わるのか」との質問に対し、イシケリ・マタイトガ駐日フィジー大使は「太平洋地域は貿易相手国にはなれない。フィジーは新しい友人を重視し、豪州は妥協を求められる」と中国重視の外交を継続する方針を鮮明にした。