フィリピン南部で爆弾事件相次ぎ厳戒態勢

 フィリピン南部ミンダナオ島中部で、爆弾事件が相次ぎ緊張が高まっている。死傷者の合計は40人近くに達しており、イスラム過激派の犯行が疑われるなど、地元当局は厳戒態勢を敷いて、新たな犯行を阻止する構えだ。また国軍によるイスラム過激派、アブサヤフへの掃討作戦も激化しており、双方に多数の死傷者が出ている。(マニラ・福島純一)

アブサヤフと国軍の戦闘激化

イスラム過激派、分裂繰り返し複雑化

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フィリピンの反政府武装勢力バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)=2011年8月、ミンダナオ島(AFP=時事)

 23日夜、コタバト州ムラン町で爆弾が爆発し、3人が死亡し14人が負傷した。現地では地元のお祭りが開催中で、多くの人が集まるビリヤード場に爆弾が仕掛けられていたことから、不特定多数の市民の殺傷を狙った可能性が高い。死傷者の多くは地元の学生で、有力者などを狙った暗殺ではなく、何らかの目的で地域や治安当局の混乱を狙った可能性もある。

 これ先立つ16日夜にも同州カバカン町の小学校付近で、爆弾が爆発し付近にいた学生1人が死亡し16人が負傷している。爆弾は小学校前にある歩道橋に仕掛けられており、さらに周辺地域を警察が捜索したところ2個の爆弾が発見され、爆弾処理班によって処理された。またカバカン町に隣接するピキット町では14日、何者かが放った迫撃砲弾が民家に着弾し、11歳の少女と男性の2人が死亡し3人が負傷している。

 一連の事件が同じ組織によるものかは、まだ分かっていないが、国軍関係者はバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)の犯行との見方を示している。警察当局は25日、コタバト州カバカン町で起きた爆弾事件の容疑者とみられる男をスルタンクダラット州の検問で逮捕した。事件の目撃者によると爆弾を設置したのは3人組の男で、今回逮捕されたのはそのうちの一人。警察によると逮捕された容疑者は、過去に強盗や窃盗で逮捕状が出ており、BIFFとのつながりに関しても調べる方針だ。しかしBIFF側は民間人への攻撃はしないと主張し、一連の爆弾事件への関与を否定しており、捜査の進展が待たれる状況となっている。

 これらの事件を受けコタバト州は25日、治安当局に命じて厳戒態勢を敷き、さらなる爆弾事件を阻止する構えを示した。ムラン町での事件では、爆弾が爆発する前に現場を離れるバイクに乗った2人組の男が目撃されており、警察が目撃者の協力を得て似顔絵を作成するなどして、容疑者の割り出しを急いでいる。

 また、イスラム過激派のアブサヤフと国軍部隊の激しい攻防も依然として続いている。スルー州で14日に起きたアブサヤフと国軍部隊の戦闘で、兵士14人が死亡し26人が負傷した。アブサヤフ側も少なくとも9人が死亡し、30人以上が負傷したとの情報もある。この戦闘では約300人のアブサヤフと80人の国軍部隊が衝突するという大規模なもので、戦闘は次第に激しさを増している。

 さらに23日にはバシラン州で、拠点を発見した国軍部隊とアブサヤフが戦闘となり、少なくとも5人のアブサヤフ・メンバーが死亡した。拠点はおよそ50人を収容できる規模で、複数の弾薬やソーラーパネルなどが押収された。アブサヤフをめぐっては、9日にサンボアンガ市内のマッサージ店に仕掛けられた爆弾が爆発し警官が負傷した事件で、目撃者の証言からメンバーの一人を容疑者と特定し行方を追っている。国軍高官はこの爆弾事件をスルー州とバシラン州で行われている掃討作戦に対する陽動との見方を示しており、今後も爆弾テロに対する警戒を強める方針だ。

 南部を拠点としているイスラム過激派は、思想の違いなどから分裂を繰り返す傾向があり、政府による個別の和平交渉は難しい状況にある。政府と和平を進めているモロ・イスラム解放戦線(MILF)のムラド議長は、BIFFが既に三つの組織に分かれており、交渉が難しいとの見解を示している。BIFFはMILFの和平反対派によって組織された分派だが、MILFも政府との和平に反対し1970年代にモロ民族解放戦線(MNLF)から分離した組織である。