デモ隊暴徒化で民主派混乱

道路占拠に早期撤退世論増す

 香港行政長官選挙の民主化を求める学生らによる道路占拠デモは、裁判所による強制排除で転機を迎えている。デモ隊側は強硬派による立法会(議会=70)ビル突入で求心力が落ち、香港世論も占拠長期化を望まない声が強まることで親中派は民主派の分裂・弱体化を図る。29日投開票の台湾統一地方選では中国の香港への圧力に警戒感が強まり、対中融和推進の与党・国民党は苦戦を強いられている。
(香港・深川耕治、写真も)

強制執行、急進派に危機感

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香港・九竜半島の繁華街、旺角(モンコック)の道路占拠デモエリ
アで中華民国旗のパネルを持ちながら歩くデモ参加者

 19日未明、香港島中心部の立法会(議会)敷地内でデモ隊の一部と警官隊が衝突した。デモ隊強硬派の主要勢力である急進民主派団体「熱血公民」メンバーらが立法会議事堂ロビーのガラスを割って侵入を図り、警察は21日までに民主派のネット情報編集長を含む11人を逮捕。占拠デモを主導する学生団体・香港大学生連合会(学連)の周永康事務局長は「(建物を破壊する)意義が到底理解できない」と述べ、学民思潮の黄之鋒事務局長も「困惑している」と頭を抱える。非暴力を貫く占拠デモとしては汚点として尾を引きそうだ。

 香港の高等法院(高裁)は関係企業・団体からの申し立てを受け、道路占拠禁止命令を地区ごとに出しており、18日に香港島・金鐘(アドミラルティー)のオフィスビル周辺で初の執行が行われたが、大きな混乱はなかった。

 ところが同日夜、ヘルメットやマスクを着けたデモ隊約200人が立法会ビル出入り口をふさいだ。デモ急進派はネット上で突入を呼び掛ける書き込みを行い、立法会で版権に関する法案可決を阻止する目的でビルへ突入を図る者も出現。民主派議員が止めにかかったが応じずに一部暴徒化し、警官隊と衝突して混乱した。法案審議自体が偽情報で急進派が危機感を強め、突入の大義名分にした可能性が高い。

 民主派各党の立法会議員団も記者会見で立法会突入の動きを批判。「事件は道路占拠デモと無関係だ」と強調しているが、同事件は民主派内部の指示統制が取れていないことが表面化したもので、国際世論も先細りしており、無党派中間層の批判が厳しさを増しそうだ。

 民主派内部ではデモを縮小・コンパクト化し、政府対話優先を主張する学者やベテラン議員がいる一方、現状維持で徹底抗戦を主張する急進派の声も根強く、路線対立から全体の戦術転換ができないジレンマに陥っている。「学生団体の理想主義だけでは限界に来ている」(民主派の梁家傑立法会議員)のだ。

 九竜地区の繁華街・旺角(モンコック)の道路占拠については高等法院による占拠禁止命令の強制執行が25、26日の両日に行われる見通し。旺角にはデモ隊強硬派の各グループが割拠しており、金鐘での強制排除執行よりもはるかに激しいデモ隊の抵抗が予想され、混乱は必至だ。香港警察は警官数千人を現場に配備し、執行当日の混乱に備える準備をしている。

 香港大学の最新世論調査結果(17~18日実施)によると、道路占拠を「やめるべきだ」と答えた人が82・9%、「続けるべきだ」が13%。「政府は強制排除すべきだ」が68・1%、「現状を維持すべきだ」が25・1%となっている。占拠デモの支持率は低下傾向が続いており、立法会ビルへの突入事件でさらに下がるとみられる。

 親中派は世論の風向きが変わったことで「警察支持の183万件の署名でも民意は明確であり、裁判所と警察が粛々とデモ隊排除を実行することを見守る」(全国人民大会代表の呉秋北・香港工会連合会理事長)との態度で民主派の四分五裂による弱体化を見通している。今後はデモ持久戦から立法会での法案議決に争点が移っていきそうだ。

 一方、香港の混乱で中国への警戒感を増す台湾は29日投開票の統一地方選で対中融和を進めてきた与党・国民党が苦戦を強いられている。

 国民党が地盤にしていた台北と台中の市長選で野党系候補が優位に立ち、台中市長選では野党・民進党の林佳龍候補が序盤から常にリードを保ち、現職の胡志強市長は「多選」批判にさらされ、劣勢が続く。首都の台北市長選でも野党・民進党が支持する無所属の新人・柯文哲候補が民間世論調査の大半で国民党の連勝文候補より優位に立っており、国民党の選挙地盤が野党系に塗り替えられれば、次期総統選にも影響を及ぼしそうだ。