香港デモ、民意争奪戦で足並みに乱れ
行政長官辞任促す声
香港行政長官選挙の普通選挙改革をめぐり制度の民主化を要求する学生ら民主派が幹線道路の占拠デモを継続している問題で、中国政府やデモ隊側は「民意」争奪戦で双方とも足並みに乱れが生じ、一進一退の膠着(こうちゃく)状態が続いている。財界系穏健派からは梁振英行政長官の辞任を促す声も出て混迷の度を増している。(香港・深川耕治、写真も)
穏健派が政府トップ批判
2017年の次期行政長官選の普通選挙改正案をめぐる香港政府と路上デモで抗議するデモ隊側では、政府を支持する親中派や親政府派と中国政府の改正案を受け入れることに反対する民主派の対立構図に色分けされる。
ただし、双方とも一枚岩ではなく、内部対立も先鋭化している。
10月24日、財界系の穏健派政党・自由党の田北俊名誉主席(立法会議員)は「梁振英行政長官が現職を継続すれば香港は一つにまとまらずに分裂し、国際イメージが悪化する。行政長官ポストの辞職を考慮すべきだ」と発言し、香港政府や中国政府に少なからず動揺が広がっている。
田北俊氏は香港の観光発展局主席や行政長官直属の行政会議メンバーを歴任した親政府系の財界を代表する立法会議員。財界が支援する自由党主席を務め、現在は名誉主席でもある政府寄りの穏健派だ。民意の指標は親中派や民主派ではなく、中間穏健派の見方が大きく左右する。
その田氏が「梁行政長官が占拠デモの内憂外患に対処しても2、3年の任期内を全うできない」「梁氏が行政長官を続ければこのままでは香港が統治不能に陥ってしまう」と批判したのが董建華・元行政長官(全国政治協商会議副主席)の梁長官擁護発言の直後だっただけに、香港政府側の足並みの乱れが顕著になった形だ。
親政府派の新民党主席である葉劉淑儀氏(元香港保安局長)は「中央政府は梁振英行政長官を支持している。辞任喚起は政治的に間違ったメッセージを与える」と猛反発。その後、中国政府の駐香港中央連絡弁公室(中連弁=旧新華社香港支社)の張暁明主任は真意を確認するために中央政府に不満を募らせる田氏を呼び出したとされる。
中国共産党・政府内部でも香港情勢に対する意見の食い違いが出始め、足並みがそろっているとは言い難い。
中国国営の新華社通信は25日、英文記事で香港民主派デモの是非について世界有数の富豪である香港四大財閥トップの李嘉誠氏(長江実業グループ会長)や李兆基氏(恒基不動産会長)、郭鶴年氏(ケリーグループ会長)、呉光正氏(九龍倉集団会長)の4人が「態度を表明していない」と名指しで非難。親中派の大物財界人4人を国営公式メディアで批判するのは極めて異例で親中派に大きな動揺と衝撃が走った。新華社は同記事を撤回し、代わりの記事で「香港財界の多数の著名人や経済団体が違法占拠デモを非難している」と一転、親中派財界人を評価した。
中国共産党機関紙・人民日報も香港の基幹道路占拠デモを旧ソ連圏で親米勢力が政権を覆した「カラー革命」になぞらえて「革命」と断じ、「中央政府が信任した行政長官の辞任を企てている」と非難。香港初代行政長官だった董建華政協副主席は「道路占拠は革命ではない」と打ち消しに必死だが、中国公式メディアと董氏のような中国指導部の代弁人の間で見解がまったく違うことへの不満や苛(いら)立ちが、財界系立法会議員の田北俊氏発言にも反映されているとみられる。
親中派の住民団体は25日から警察によるデモ隊排除を支持する署名活動を香港各地で開始し、最初の4日間で98万件を集めて主流民意を獲得する動きに出ている。ただし、25日の尖沙咀(チムサーチョイ)での集会では地元テレビ局の記者らが取材をめぐるトラブルで生中継しないことに憤怒した親中派住民に取り囲まれて暴行を受け、暴力団関係者の関与も疑われている。
一方、17年の行政長官選の制度改革に反発する学生ら民主派は26日、金鐘(アドミラルティー)などの占拠エリア3カ所で26、27の両日夜に予定していた政府提案に対して賛否を問う投票の実施を棚上げすると発表し、急進派と穏健派の意見対立が強まった。
投票形式や議題について煮詰まらない段階での見切り発車状態だったためで「協議不足だった」と弁解。「棚上げはデモ停滞ではない」とも主張しているが、民主派内部では設問内容をめぐり、穏健派と急進派の争いが路線対立を生み、内部の混乱ぶりを改めて露呈した形だ。
今後は香港立法会(議会=定数70)で中央政府の決定した行政長官選の普通選挙改革案が通過できるかが焦点となっており、議会の3分の1となる24人以上が反対・棄権すれば同改革案を否決に持ち込めるため、否決意向の民主派議員27人への切り崩し工作が激しさを増している。