惨事相次ぐマレーシア航空、客離れで経営面でも急降下
国営企業の脇の甘さ露呈
ウクライナで続く戦闘の巻き添えで先月、マレーシア航空の旅客機が撃墜され、約300人の乗客・乗員全員が犠牲になった。マレーシア航空は、3月にも旅客機が行方不明になったばかりだ。相次ぐ惨事にマレーシア航空は頭が抱えるが、本体の経営もエアポケットに落ちたかのような難しい局面を迎えている。撃墜事件で客離れが深刻化し資金繰りが悪化しているだけでなく、ナショナルフラッグであるマレーシア航空に立ちはだかっているのは、国営企業の脇の甘さと格安航空の台頭だ。(池永達夫)
格安航空の台頭が逆風
マレーシア航空は2013年12月期まで3期連続で最終赤字を計上した。14年第1四半期も140億円の赤字だった。1997年のアジア通貨危機を契機に、業績悪化を余儀なくされ、それ以降は赤字体質から抜け出せないままだ。同社は2014年12月期の黒字転換を目指していたが、3月の機体消息不明事件と7月の撃墜事件など相次ぐ参事は、深刻な客離れを起こし、資金繰りなど経営的にも困窮を極める状況となった。
結局、マレーシア航空の約7割の株を保有するマレーシア国営投資会社カザナ・ナショナルは今月上旬、マレーシア航空を完全国有化すると発表した。国の信用をバックに経営破綻を回避し、再建策を軌道に乗せる狙いだ。カザナ・ナショナルは今週中にも最終的な具体的再建案を提出する。
カザナ・ナショナルはマレーシアの財務省が100%出資し、1993年に設立した政府系ファンドで会長はナジブ首相が務める。
なおマレーシア航空を経営難に追い込んだ最大の原因は格安航空(LCC)の台頭だ。
マレーシアには格安航空の先駆けとなるエアアジアが拠点を構える。
しばしば記者会見などにトレードマークの赤い帽子を被(かぶ)って現れるトニー・フェルナンド氏が、2001年にエアアジアのトップに就任。以後、インターネットでのチケット販売など徹底したコストカットを推し進め、アジア最大の格安会社に成長した。
座席当たりに掛かるコストは、マレーシア航空の約半分に押さえ込み、マレーシア航空はかつて独占状態だった国内線の多くをエアアジアに奪われた。国際線でも短距離路線を中心に厳しい価格競争にさらされている。
タイのドンムアン空港など、エアアジアのシンボルカラー赤一色に染まっているほどだ。
老舗のナショナルフラッグであるマレーシア航空は、なぜエアアジアなどの格安航空に対抗し切れないのか。「敵は内にあり」ではないが、国有企業ならではの企業体質と労組パワーが、変化に対応する柔軟で素早い意思決定を阻んできた現実がある。
これまで経営が苦しくなるたびに、政府が多額の資金を注入してやり繰りしてきた。だが苦境に陥れば、最終的には政府が尻拭いしてくれるという構造は、知らず知らずのうちに経営陣の甘えを生み、脇の甘さを露呈させる負の側面を持つ。
また、影響力を持つ労働組合が人件費削減に反対してきたのも、改革を遅らせた一要因となっている。長期にわたる経営不振に陥った一因は過大な人件費だ。昨年度は利用客が前年より2割以上増えたものの、赤字は逆に膨らんだ。約2万人もの従業員が「過剰」なのだが、人員削減に踏み切れないでいる。労組はナジブ首相率いる与党の有力な支持基盤であるため、政治的コネを使ってリストラに反対し続けてきたためだ。
さらに、上場廃止で株式市場の監視を失うため、かえって「労組と国のなれ合いに歯止めが掛からない」と危惧する向きもある。
いずれにしても経営危機を改革のバネにして再びナショナルフラッグの翼を世界に広げるか、あるいはこのまま急降下を余儀なくされたまま破局を迎えるかマレーシア航空は正念場を迎えている。






