比政府とMILF、バンサモロ法案めぐり対立
16年までの創設に黄信号
今年3月に国内最大のイスラム武装勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)が、新しい自治政府(バンサモロ)の創設を条件に武装解除などの要求に応じ、政府との包括和平合意文書に調印したことで、比南部ミンダナオ島における和平問題は大きな前進を果たした。しかし、ここにきてバンサモロ基本法案の内容で再び見解の相違が浮上。基本法案の国会提出が大幅に遅れており、アキノ大統領の任期が終了する2016年までの和平実現に、黄信号がともり始めている。(マニラ・福島純一)
アキノ大統領 改憲での任期延長狙う?
8月初旬、ダバオ市で政府とMILFの交渉団は、バンサモロ基本法の草案に関する10日間に及ぶ話し合いを行った。しかし、政府側が変更を加えた部分にMILFが強い反発を示して合意に至らず、法案の国会提出に大きな遅れが生じている。既にバンサモロ創立へのスケジュールは、当初の予定よりもおよそ1年の遅れが生じている状況で、アキノ大統領の任期終了による時間切れを懸念する声も高まっている。
問題となっている法案の内容は明らかにされていないが、MILF側の和平交渉団のイクバル団長は、「法案の内容の70%が修正、もしくは削除されており受け入れられない」と、最終段階における政府の変更を強く非難した。またMILFのジャファール副議長は、「8月中に法案が提出されなければ悲惨な結果となるだろう」と指摘。さらに「多くの司令官が武装闘争を始めたがっている」と述べ政府を強く牽制(けんせい)。法案の成立に向けた作業を急ぐよう求めた。
ここにきて政府側が最も恐れているのは、法案の内容が憲法に抵触し、改憲を迫られる事態に陥ることだ。改憲が必要と判断された場合、議論に時間がかかるのは必至の情勢で、現政権下でのバンサモロ創設は極めて困難な状況に陥る。そのため政府側は、反発を覚悟で法案の内容に最終的な修正を加えたとみられている。
一方、政府側の交渉団は、法案の80%でMILFと合意に達したとの見方を示し、8月末までに法案の国会提出を行う方針だ。これ以上の遅れは許されない状況にあるが、ドリロン上院議長は、8月中に法案が提出されれば、来年の第1四半期までは承認が可能との見通しを明らかにしており、大統領府も「まだ時間はある」と指摘し、楽観的な見方を崩していない。
とはいえ、既に当初の計画よりも約1年の遅れが出ていることを考えれば、最悪のシナリオも予測できる。万が一バンサモロの設立がアキノ政権下で時間切れとなり、次期大統領選で政権交代が行われた場合、次期政権による和平合意の見直しや白紙撤回も考えられる。そうなった場合、アロヨ前政権で和平合意が最高裁の違憲判決によって撤回された時のように、MILFが武装闘争を再開して大規模な戦闘が勃発し、南部が再び混乱に陥る可能性も高い。
政府には、さらなる和平プロセスの加速が求められているが、ここにきてアキノ大統領の支持率が急落するなど、政権のレームダック化の懸念も出ており、今後さらにプロセスが失速する可能性も否定できない。
さらに次期大統領選をめぐっては、ビナイ副大統領をはじめとする野党勢に人気が集まっており、アキノ大統領の後継者に位置付けられているロハス内務自治長官は、災害対策の対応などで評価を下げ、現時点では次期大統領選に出馬しても、厳しい戦いは避けられない状況にある。
このような状況の中、アキノ大統領はこれまで否定してきた改憲による大統領の再選禁止の見直しを容認する発言をするなど、任期の延長を狙っているとの見方も出ており、野党が警戒を強めている。