香港で来月末の金融街占拠へ攻防

民主派 英米と共闘、世論喚起へ

親中派 反対の署名活動で対抗

 次期香港トップを決める2017年の行政長官選に「普通選挙」を導入する最終案の選定をめぐり、親中・親政府派と民主派の攻防が激化している。15日、梁振英行政長官は選挙制度改革の報告書を中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会に提出し、全人代が8月末、改革の原則を示す見通しだ。民主派候補排除の制度案採用を打ち出した場合、民主派は金融街のセントラル(中環)を占拠する抗議活動を計画、親中派は占拠反対の署名活動で対抗し、緊迫しつつある。(香港・深川耕治、写真も)

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1日、完全普通選挙を求める民主化デモに参加する香港の学生組織メンバーら。2日朝まで金融街のセントラル(中環)で座り込みデモを続けた

 一連の混乱は香港の憲法に当たる香港基本法の解釈にある。

 香港基本法では香港トップの行政長官と立法会(議会)の全議員を「最終的に普通選挙で選ぶ」と明記しており、中国は17年の行政長官選挙からの導入を容認する方針を示してきた。

15日、香港政府は16年の立法会議員選挙と17年の行政長官選挙に関する政治体制改革の公開諮問報告書を発表し、梁行政長官が全人代常務委に提出した報告内容を発表した。

 報告書によると、第1回の諮問期間(昨年12月~4月)に寄せられた書面意見は約12万4700件。主流意見としては親中派が主張する「指名委員会のみが行政長官候補の指名権を持つ」「行政長官は愛国愛港(中国と香港を愛する)でなければならない」が多いとし、一部に「有権者指名や政党指名を採用すべきだ」との意見があることも盛り込まれた。

 この報告書に基づき、梁行政長官が全人代常務委に提出した報告では「17年の行政長官選挙は改正が必要」と提案し、「諮問期間が終わった後、候補者選定には『住民指名』の要素を含むべきだとみる市民も少なくない」との分析も表記されている。

 香港政府としては、中央政府の顔色をうかがいながら最終決定は香港基本法の解釈権がある全人代常務委の決定に丸投げし、指示を仰ぐ形だ。

 一方、「香港の良心」と欧米メディアから評される穏健民主派の陳方安生(アンソン・チャン)元香港政務長官は3月、バイデン米副大統領とホワイトハウスで会談し、「香港の次期行政長官選挙は中国共産党の選んだ候補しか出馬できない可能性が強い」と訴えた。

 陳方氏と李柱銘(マーチン・リー)元民主党主席は12日から訪英。

 16日、英国のクレッグ副首相と会談した陳方氏と李氏は、中国政府が先月発表した一国二制度白書について、英中共同声明に反する内容で「香港人は司法の独立を損なうと懸念している。法曹界1800人が黒い衣服でデモに参加した」(李氏)と説明。香港返還についての「英中共同声明」の署名国である英中両国は、香港の現行制度を維持すると定めた「一国二制度」について「責任を果たしていない」だけでなく「中国政府が香港の行政に干渉している」(陳方氏)と訴えた。

 クレッグ副首相は「わが国は国際条約である共同声明の全面実施を保証する。英中共同声明に対して中国が違反した場合、国際ルートを通して声明の再確認を求めていく」と述べ、国際世論に訴えていく姿勢を表明した。

 これに対し、中国外務省は同日、「英国側の手法は中国への内政干渉だ。中国は強烈な不満を表明する」と批判。英中共同声明の履行に問題がある場合、英国側がチェックすることすら否定する強弁に英国側からも批判が出ている。

 15日、学生グループを含む民主派の3団体は「香港社会の主役たる(行政長官候補を選ぶ)住民指名が、報告では脇役扱いになっている」(香港専上学生連会)と批判し、全人代常務委の決定で住民指名を否定した場合、「反対デモかセントラル占拠を決行する」と表明。9月には授業ボイコットを実行することも明らかにした。

 学生を中心としたセントラル占拠を実行しようとする急進派は、まだ、数千人規模にすぎない。実際、7月1日の大規模な民主化デモ後、「セントラル占拠」の予行演習と位置付けて2日早朝までセントラルで座り込みのデモを行ったのは1200人。うち511人が逮捕された。

 親中派団体は、セントラル占拠を計画する若者たち自身ではなく、その親に「逮捕されたら犯罪歴がついて就職できなくなる」などと署名活動で説得工作を進め、参加者数が予想を大きく下回った。

 親中派は3日、セントラル占拠行動に反対する「保普選、反占中大連盟」を発足させ、署名活動を28日から21日間続ける計画。署名目標数は民主派が行った模擬住民投票約79万票を上回る80万人として着々とさらなる封じ込めを図る。

 劣勢を巻き返したいセントラル占拠の発起人の一人、戴耀廷氏は、「政府報告は住民指名を直接否定していないので、現段階では全面的にセントラル占拠を行うことはない」と述べ、全人代常務委が決定を下す前に中央官僚と対話する必要性があることや全人代常務委が10月に決定を先送りすることを求めている。急進的な違法デモだけでは中央政府の方針は変わらないと見始め、中央政府官僚との政治交渉で実を取り、全人代の決定先送りで妥協点を見いだそうとする動きも出てきている。

【香港の普通選挙】2017年3月に行われる次期行政長官選挙では、立法会議員や産業界代表らでつくる指名委員会が次期行政長官の候補者を複数指名した後、有権者が1人1票を投じて選ぶ普通選挙方式となる。親中・親政府派は第1段階である候補者選定では親中派が大多数を占める指名委員会が民主派候補を事実上排除できる仕組みにしようとしているが、民主派は有権者の一定支持があれば誰でも立候補できる「有権者指名」を要求し、対立が鮮明化。全国人民代表大会常務委員会で8月末に原則案が示された後、香港政府は第2次公開諮問を行い、年内に選挙制度改革案をまとめる見通し。