香港の親中派、「8月末金融街占拠計画」を封殺へ
1997年7月、英国領から中国に返還され、50年間にわたる一国二制度による高度な自治が認められている香港が政治的に大きな転換点を迎えている。次期香港トップを選出する2017年の行政長官選に「普通選挙」を導入する案をめぐり中国政府の意向をくむ親中・親政府派は民主派候補を実質排除する案を策定し、猛反発する民主派は独自案を模擬住民投票で民意を問い、1日の大規模な民主化デモに続き、8月末にも金融街のセントラル(中環)を占拠して抗議する計画を進めている。台湾の学生が決起した立法院(国会)占拠と違い、違法性が問題視されて民意を得ていないことを見透かす親中派はセントラル占拠を封殺する連携工作を進め、香港の中国化は着実に浸透している。(香港・深川耕治、写真も)
参加学生の親を説得「犯罪前歴が就職左右」
中国返還17周年を迎えた1日、香港各地では返還を祝賀するイベントが開かれ、香港島湾仔(ワンチャイ)ではイベントの途中、親中派の主催スタッフがセントラル占拠に反対する署名活動に熱心に取り組む。「大学生の孫が参加すると息巻いていて就職に差し障るのではないかと夜も眠れない」と言いながら署名する高齢者たち。
セントラル占拠に反対する親中派組織「愛護香港力量」は29日にデモを行い、署名活動で3万人が署名し、セントラル占拠に参加しようとする学生や若年層自身ではなく、その親を説得し、参加しないよう押さえ込んだ。
1日、完全普通選挙を求める民主派の大規模デモ(主催者発表51万人、警察発表約10万人)の後、セントラル占拠の予行演習として2日朝までセントラルでの座り込み抗議を行った若年層はわずか約1200人。逮捕者は空前の511人だったが、4000人の警官を動員して排除・拘束するのは容易だった。
親中派は3日、セントラル占拠行動に反対する「保普選、反占中大連盟」を発足させ、署名活動を今月28日から21日間続ける計画。署名目標数は模擬住民投票を上回る80万人として着々と封じ込めを図る。
民主派の民間団体「和平占中(オキュパイ・セントラル)」は8月末にも香港金融街のセントラルを占拠する計画だ。当初、40歳以上の人々を1万人以上集めてセントラルを占拠することを打ち上げていたが、香港経済を麻痺(まひ)させる違法活動に市民の反応が冷ややかだったため、若年層、特に学生組織にターゲットを移して占拠を計画・実行するメンバーを募っていった。
セントラル占拠の違法行為で逮捕されれば、犯罪前歴がつき、就職を左右する。親中派団体の「愛港之声」、「香港青年関愛協会」、「齊心行動」、「愛護香港力量」や親中派政党は、参加しようとする若者自身ではなく、その親に焦点を絞って説得工作を展開。家族の悲痛な嘆きを利用してデモ参加辞退を誘導している。「われわれは今後、何もしない。警察の保安管理能力を信頼する」(「愛護香港力量」の李家家・招集人)と余裕さえ見せ、戦略的な封じ込め工作が奏功していることをうかがわせている。
台湾の学生らが中国とのサービス貿易協定の締結をめぐり、3月に立法院(国会)を占拠し、民意を得て協定締結見直しを勝ちとった。しかし、主権があくまで中国にある香港では、同様の学生の決起は民意を得られず、違法行為として封殺される。民主派は戦略の立て直しをしない限り、8月末のセントラル占拠実行への見通しは暗い。
3日、親中派団体「愛港之声」の事務所では1日の民主化デモについてメンバーらが意見交換の会議を行っていた。
参加者らは「本当に51万人が参加しているならデモは70時間かかる。意図的に牛歩戦術を使い、デモを遅らせた」「正確なデモ参加者数は常に主催者発表の6分の1程度。50万人にこだわるのは国連が50万人以上の行動を評価するからだ」「香港紙『明報』など主流メディアを買収しないと本当の数字が反映されない。香港ラジオ、NOWテレビも反中反共が露骨で、正しい報道は『文匯報』『大公報』ぐらいで悔しい」などの発言が出ていた。
4日、香港警察は、1日の民主化デモ主催者メンバー5人をデモ行進のペースを故意に遅らせ、公共の安全と秩序に悪影響を与えたとして、公務執行妨害などの疑いで逮捕。言論・集会の自由が認められている香港で、デモ主催者が逮捕されるのは極めて異例だが、親中派団体の発言力が強まっている証左でもある。
一方、若年層の間に1989年に発生した天安門事件に対する関心が高まりをみせており、民主派にとって逆風ばかりではない。
2日、尖沙咀(チムサーチョイ)にある支連会(香港市民支援愛国民主運動連合会=李卓人主席)が運営する天安門事件記念館は前日のデモの余韻が残っているかのように香港や中国、欧米の若者が団体で見学に訪れ、ごった返していた。
事件で人民解放軍の銃撃を受けて死亡した中国人学生や若者たちの遺体画像を見せながら「中国共産党は事件を学生の動乱と断じて血の弾圧を行い、多くの無辜(むこ)の人民が犠牲となった。中国政府は事件の再評価を行うべきだ」と話す記念館スタッフに、香港や中国の若者たちは深くうなずいていた。
民主派の最大野党・民主党は6日、セントラル占拠行動を支持し、8月までに実行することを表明。急進派に押される民主派内の穏健派は強い拒否反応を示しているが、民主派全体として足並みはそろいつつある。
普通選挙をめぐる香港の親中派・親政府派と民主派の戦いは両者の後ろ盾である中国と英米のせめぎ合いを通して香港の「主流民意」をいかに勝ち取るかにかかっている。