中国習政権が売春摘発で石油閥根絶へ
黙認の東莞警察トップ更迭
違法風俗店での売春が横行していた中国広東省東莞市で大規模摘発が9日から行われ、同市公安局長(警察トップ)が取り締まりの手抜かりを理由に更迭された。前政権時代の警察部門トップだった周永康・前政治局常務委員の息が掛かる石油閥の根絶に向け、ポスト習近平の有力候補である胡春華・同省共産党委員会書記が摘発を命じるという熾烈(しれつ)な派閥抗争が背景にある。(香港・深川耕治)
胡春華広東省党委書記の手腕に注目
東莞での大規模摘発のきっかけは中国中央テレビ(CCTV)が9日、同市内の売春に関する潜入取材での実態を放送したことだ。市内のシェラトンホテル、太子酒店など高級ホテルで番号の付いた女性が料金と共に紹介される様子などが克明に放映され、地元警察が売春を容認していた実態が浮き彫りになる衝撃的な内容だった。
東莞市は香港と広東省の省都・広州の中間に位置し、重工業以外の工場が林立し、香港や台湾企業が数多く進出。日系企業も多い。単身赴任者が多いこともあり、カラオケバーやサウナ、マッサージ店などは売春を斡旋(あっせん)する違法風俗店と化しており、ホテル間の競争が激化し、客離れを防ぐために各ホテルでも同様のサービスが提供されている。国内では「東莞式サービス」と呼ばれ、東莞は中国の「性都」と称されているほどだ。同省珠海市では2003年9月に発生した日本人男性による買春事件で一時的に厳しい取り締まりや規制が行われたが、東莞は地元公安当局と暴力団傘下の風俗店の癒着が解消されないままだった。
CCTVの放送直後から東莞市内での一斉摘発は空前の規模で開始。胡錦濤前国家主席と同じ共産主義青年団(共青団)出身でポスト習近平の有力候補でもある広東省トップの胡春華党委書記(党政治局員)が即日、一斉摘発を命じ、全省での売春徹底取り締まりを展開。公安警官約6000人を投入し、2000カ所を捜査し、香港人6人を含む162人が連行された。
14日、共産党広東省委員会は東莞市公安局長(副市長)の厳小康氏を更迭。特に問題のあった町の党委書記、警察幹部も解任し、癒着が深刻だった4町の党委書記がつづった謝罪文が16日付の地元紙「東莞日報」に掲載された。
この摘発をきっかけに杭州、蘭州、済南、柳州、ハルピンなど8省9都市で売春摘発が行われ、来月5日開幕の全国人民代表大会までに摘発キャンペーンを拡大する動きとなっている。
中国人の大半が必要悪とみている東莞の実情をCCTVがあえて詳報した理由は、習近平国家主席率いる太子党と胡錦濤前国家主席や李克強首相率いる団派(青共団派)の「主導権争い」(香港各紙)との見方が根強い。11日付の香港紙「蘋果日報」は団派でポスト習近平の有力候補である胡春華広東省党委書記に対して、団派を排斥したい習氏がニューリーダーとしての資質を問う東莞報道を意図的に行うことで「胡春華氏の力量を試した」(中国評論家のウィリー・ラム氏)との見方を紹介。江沢民派で前政権の警察・司法部門トップだった周永康・前政治局常務委員の部下利権一掃と完全排除を狙っているとの見方も報じている。
胡春華書記は広東省トップに就任後、地元利権と癒着した汚職官僚を排除するため、公安部門の幹部を中央から派遣し、徐々に腐敗利権にメスを入れ始めており、CCTV報道は「胡氏が推進する省内改革からも時宜を得ていた」(中国系香港紙「文匯報」)。
また、党中央規律委員会は18日、収賄疑惑の渦中にある江沢民派の周永康・前政治局常務委員の秘書などを務めた腹心、冀文林海南省副省長を重大規律違反の疑いで調査していることを発表。周氏を筆頭とする石油閥壊滅への動きも加速している。
19日、鄧小平氏の死去17周年を迎え、出身地の四川省広安市にある旧居跡では追悼記念活動が行われた。母校の翰林小学校は「紅軍小学校」と正式改名され、赤い星の入った帽子、紅色のスカーフが入った制服を着用した生徒たちの姿が中国メディアで報じられる一方、改革開放による貧富の格差によるひずみを批判して毛沢東時代を礼賛する左派には「鄧小平への民衆の望みは毛(沢東)主席を超え難い」(左派サイト「紅歌会ネット」のミニブログ微博)との声も散見される。
中国では鄧小平氏による改革・開放の進展につれ、貧富の格差による党幹部の汚職による腐敗、違法な性風俗産業が地元公安当局と癒着することで全国的に拡大。左派の批判の標的になっていたが、江沢民氏や胡錦濤氏の時代に、違法風俗店営業黙認の見返りに収賄する構造がさらに恒常化した。胡錦濤政権時代、周永康氏が警察・司法部門トップとして君臨し続けたことも腐敗の元凶とみられており、習政権としては周氏ら石油閥の完全排除を目指している。
中国大陸では改革開放による深刻な問題点として、違法風俗問題、賭博問題、麻薬問題が社会全体に浸透しており、一時的に大規模な取り締まりが行われても、風俗問題では従事していた女性たちが暴力団を介し、他地域に移動して同様のことを繰り返し、抜本的な改善が見通せていない。
東莞での取り締まりを避けるために香港へ越境するケースも憂慮されるため、「風俗産業は複雑な問題があるが、従事している女性たちには根本的に自由を選択する権利がなく、民工(出稼ぎ農民)の労働待遇を改善・保障することで貴重な労働力が違法分子に流れることを防止する対策を充実させるべきだ」(香港理工大学の潘毅教授)との危機感も高まっている。