フィリピン 警官の親子射殺に猛批判
フィリピンのルソン島で現役の警官が、隣人の親子を射殺する残忍な事件が発生し人々の怒りを呼んでいる。被害者の家族が事件の一部始終を記録したビデオはネット上でまたたく間に拡散され、警官への迅速な処罰を求める声も強まっている。後を絶たない警官による不祥事は、警察の身内に甘い不処罰の蔓延(まんえん)が招いているとの批判も出ている。
(マニラ・福島純一)
一部始終記録した動画が拡散
ドゥテルテ大統領「保釈を認めるな」
12月20日にタルラック州で、非番の警官が近所に住む女性とその息子を射殺する事件があった。地元メディアによると警官と被害者は同じ地域に住んでおり、土地問題をめぐって長年争っていたという。事件当日は被害者の息子が禁止されている破裂音を出すオモチャを使用したことから警官が拘束を試みたところ、母親が激しく抵抗して激しい口論に発展。怒りを抑えられなかった警官が、所持していた拳銃で至近距離から母親と息子の頭部を撃ち抜いた。
この一連の様子は被害者の家族によって撮影されており、ネット上に投稿された動画が拡散され容疑者の警官に激しい非難が向けられた。容疑者の警官はいったんは逃走したが、数時間後に警察に自首し殺人容疑で起訴された。
自身も問題の動画を見たというドゥテルテ大統領は、「残忍すぎてショックを受けた」とコメントし、重大な犯罪であり保釈を認めるべきではないとの考えを述べた。そして警官に対し法律に従うように警告する一方、このような犯罪を行う警官は一部にすぎないと警察を擁護する姿勢も見せた。
元国家警察長官のラクソン上院議員は、「ビデオの映像が事件の全体像を物語っている」と述べ、揺るがない証拠であると指摘。さらに「容疑者が刑務所で朽ちることを確実にするため最善を尽くすべきだ」「慈悲を与えるべきではない」と述べ、容疑者に徹底した処罰を与えるよう強く求めた。また、このような事件を防止するために、非番の際は警官が銃を持ち歩かないよう警察署に預けるように提言した。
同じく元国家警察長官のデラロサ上院議員は、「容疑者の警官は死刑に値する」と述べ、今回のような凶悪事件の抑止のためにも死刑を復活させるべきだと主張した。
ドゥテルテ氏が推進してきた麻薬戦争をめぐっては、当初から警官による超法規的殺人など人権問題をめぐる批判が起きていた。しかしドゥテルテ氏は、任務の遂行に必要な行動ならば警官を批判から守ると繰り返し発言するなど、麻薬戦争の最前線にいる警官を鼓舞してきた。さらに腐敗対策の一環として給与を倍増するなどの好待遇も与えてきた。
しかしこのような特別扱いが、一部の警官の増長を招いているとの批判も出ている。万一に備え、非番の時も常に銃を持ち歩くよう警官に命じていたのもドゥテルテ氏だった。
人権監視団体のヒューマンライツウォッチのロバートソン副局長は、「多くの警官が制御不能になっている」と指摘。今回の事件は多発している似たような事件の一つにすぎないと強調し、内務自治省のアニョ長官の「孤立した事件にすぎない」との弁明に反論した。さらに問題を起こした警官に対する不処罰の蔓延が、今回のような事件を招いているとして改善を求めた。
実際、今回の事件を起こした警官は過去に殺人や恐喝で起訴されたり、薬物検査を拒否して31日間の職務停止処分を受けたりと度々問題を起こしていたが、警察から追放されることはなかった。
麻薬戦争の超法規的殺人などをめぐりドゥテルテ氏と対立してきたロブレド副大統領は、容疑者の警官が過去に複数の問題を起こしているにもかかわらず職務を続けてきたことを疑問視し、国家警察の組織体質に問題があるとして改革が必要だと訴えた。
警察は重大な事件で国民の関心も高いことから30日以内に処分を決定する方針を示している。