熱帯びるミャンマーの憲法改正論議
スー・チー氏「大統領就任」へ意欲
ミャンマーのテイン・セイン大統領は年初のラジオ演説で「健全な憲法は時代の要請により改正される必要がある」と積極的な改憲姿勢を示した。また大統領の資格について「国益や主権を守る必要がある」と述べた上で「国の指導者になることについていかなる国民にも規制をかけるべきではない」と踏み込んだ発言をした。来年、ミャンマーは総選挙が実施されるが、最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首の大統領選出馬に道を開くことになり得る憲法改正論議が熱を帯びてきた。
(池永達夫)
「軍推薦枠」を削減へ
ミャンマーの現行憲法は6年前、軍事政権時代に制定された経緯がある。国会の全議席の4分の1を国軍が指名した軍人議員に与える規定や非常時に軍が全権を掌握できる規定など、軍の政治的地位の保障が顕著なのが特色となっている。さらに、正副大統領の資格要件について「配偶者や子が外国人でないこと」と規定するなど亡夫や2人の息子が英国籍のスー・チー氏を権力の土俵から外している。
ミャンマーでは23年間に及んだ長期の軍政から民政に移行して3月で丸3年を迎える。欧米の経済制裁は民政移行によってほぼ解除され、外国からの投資は目白押しで最大都市ヤンゴンは活況を呈している。かつて手付かずの自然が残っていることから「ガーデンシティー」と呼ばれたヤンゴンも、バンコク同様に道路が車であふれ、渋滞で身動きが取れなくなるようにもなった。
昨年末には「東南アジアの五輪」と呼ばれる東南アジア競技大会(SEA GAME)を44年ぶりに開催、成功させた。今年は東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国として国際社会にデビューもする。現政権与党の連邦団結発展党(USDP)とすれば、こうした上げ潮に乗って来年の総選挙で、何とか政権維持を図りたい意向だが、投票に赴く国民のトータルとしての意思は、この期待に背く可能性が高い。
その証左の一つが2012年4月に行われたミャンマー連邦議会の補欠選挙だ。選挙結果は、スー・チー氏率いるNLDが45議席中43議席を獲得するという圧勝だった。スー・チー氏自身も当選を果たした。その流れからすると、来年の総選挙ではNLDが大勝する可能性が高い。
そうした潮流に乗ってスー・チー氏自身も来日した折や外遊で、しばしば「大統領就任」への意欲を語るようになった。長期間の軟禁生活を余儀なくされたスー・チー氏は高齢で、来年の総選挙が最後のチャンスという時間的制約もある。
だからこそ、スー・チー氏とすれば、憲法改正はその前にやっておかなければならない政治課題となっている。
だが、憲法改正は議員の4分3以上の賛成が必要で、軍部の賛成がなければ事実上不可能だ。
そもそもミャンマーの民主化は、民主化運動で勝ち取ったものではなく、軍政が自ら改革を主導した「自己改革」に基づいている。何より現政権のメンバーの大部分は、旧軍政の幹部で構成されている。テイン・セイン大統領は軍政下で首相を務めていたし、30人の閣僚のうち26人が軍籍を所持していた人物で民間人は4人しかいない。
だが、その政権内部からも憲法改正の声が上がるようになった。
フラミン国防相(ミャンマー軍中将)は12年6月、シンガポールのアジア安全保障会議に出席し、国会議員の4分の1を軍推薦枠に割り当てる現憲法について「時期が来れば軍推薦枠が減らされることもあり得る」と述べ、将来的に軍推薦議員数を減らす方向で憲法が改正される可能性があると言及している。
また、昨年6月に訪米したトゥラ・シュエ・マン下院議長は「スー・チー氏の大統領選出馬を議会は支持する」考えを明らかにし、「現憲法の幾つかの条項を修正、破棄する必要がある。スー・チー氏が出馬できるような提言を委員会が行えば、下院は支持する」と述べている。
ミャンマー国会は昨年7月、憲法改正について議論する特別委員会を設置。昨年末に与野党から提出された各憲法改正案を受け、2月にも憲法改正素案が出て来る見込みだ。