安保法てこに同盟枠組み拡大
第3次安倍改造内閣スタート(下)
今回成立した安保法制は、安倍首相が「日米同盟が完全に機能し、地域の平和と安定を確固たるものとする」と強調するように、自衛隊と米軍の一体運用を可能にし、日本の抑止力を格段に高める。そして、アジア太平洋地域をはじめ、世界の平和と安定に資するものだ。首相はまた「フィリピンを始め、東南アジアの国々、米国や欧州の国々からも強い支持をいただいている」と、自らの安保政策に自信を深め、日米同盟を基軸とした、日米韓、日米豪、さらに、フィリピンやインドなど、我が国周辺諸国との安保協力関係の枠組み拡大を図る。
中でも、南シナ海の領有権を巡って中国と対立するフィリピンは、日本との戦略的関係構築に強い期待を示し、日比両政府は自衛隊の比駐留に道を開く地位協定の締結も視野に入れている。
フィリピンは、米軍を撤退させて生じた「力の空白」を急速な軍備増強を背景に海洋進出を図る中国に突かれ、スプラートリー(南沙)諸島の岩礁を1995年に占拠された。中国は、岩礁を埋め立てて港湾や滑走路を整備し、軍事拠点化を企てていて、フィリピンは深刻な軍事的脅威にさらされている。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡って、県は同沿岸部の埋め立て承認取り消しの構えだ。しかし、中国は、尖閣諸島の領海近くに海軍の艦艇2隻を常時派遣し、日本政府と沖縄県の対立の行方をうかがっている。フィリピンの例で明らかなように、抑止力はいったん失うと回復は至難となる。安倍首相は、沖縄の地政学上の重要性を県民に丁寧に説明しながらも、移設作業推進の断固とした姿勢を示すべきだ。
日中・日韓関係が冷え込んで久しい。それでも安倍首相は積極的平和主義外交を展開、精力的に世界各国を歴訪し、中国を念頭に「力による現状維持の変更に反対する」ことへの同意を獲得してきた。中国が昨秋から日本との関係改善に動き始めたのは、こうした戦略的外交圧力が奏効したためと見てよい。
韓国政府もまた、急速な深化を見せる日米関係から隔絶していく立場に危機感を募らせ、対日関係改善の動きを見せ始めた。2013年以来途絶えていた日中韓首脳会談開催を中国に促し、日本側に韓国開催の意向を伝えてきた。今月下旬にも行われる3カ国首脳会談の際に、朴槿恵韓国大統領との会談を実現し、日韓関係改善の流れを定着させたい。
一方、ロシアは北方領土問題で強硬姿勢を崩さない。先月の国連本部での安倍首相とプーチン大統領との会談で、13年の日露共同声明に基づき平和条約交渉をまとめることと同大統領の訪日を確認したが、楽観は禁物だ。
来年5月には、三重県志摩市でG7主要国首脳会談が開かれる。来年の日中韓首脳会談は、日本開催の番だ。日中・日韓関係の改善、北朝鮮による日本人拉致問題、北方領土返還など日本に関連する問題のほか、ウクライナやシリア情勢など国際社会が直面する問題解決に向け、ホスト国としての指導力が求められる。
(政治部・小松勝彦)






