第3次安倍改造内閣が発足 「1億総活躍」へ政策基調転換を
第3次安倍改造内閣スタート(上)
第3次安倍改造「未来へ挑戦する内閣」が発足した。
今回の内閣改造は、自民党総裁に再選された安倍晋三首相が新たに任期3年を歩みだすためのものだ。来年夏の参院選と再来年4月の消費税再増税をにらみながら、安保法制成立の代償として打撃を受けた政権を再浮上させることが当面の課題だ。また、難産の末に5日、大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)をベースにした新しい経済体制づくりも緊急の課題に浮上した。
そのため首相はまず、自民党の役員人事では高村正彦副総裁と谷垣禎一幹事長ら党4役を留任させ、内閣も麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官、TPP交渉で手腕を発揮した甘利明経済再生担当相など主要閣僚を留任させて骨格を維持し、政府与党の安定を最重視したようだ。初入閣は9人で女性閣僚は3人にとどまった。
その一方で首相は、50年先をにらんだ「1億総活躍社会」の実現という新しい野心的な政策目標を掲げた。既に日本に暗い影を落としつつある少子高齢化社会をどう克服するかという、日本が避けては通れない課題に内閣として挑戦するというわけだ。
そのために、官邸主導の政権運営に力を発揮した加藤勝信官房副長官を目玉ポストとして新設した1億総活躍担当相(女性活躍相、少子化担当相など兼任)に抜擢。①名目GDP(国内総生産)600兆円②希望出生率1・8③介護離職ゼロ―という数値目標の達成に向けて、近く国民会議を立ち上げて具体的なアクションプラン作りに着手する。
ただ、この数値目標はいずれも従来の政策基調のままでは実現不可能に近い高いハードルといえる。従って、その実現のためには、従来の政策基調とその根本哲学自体の検証が必要になるはずだ。
例えば、合計特殊出生率を現在の1・4程度から1・8まで引き上げるというが、これが保育所の待機児童をゼロにするという「女性の社会進出を誘導する」発想に基づく政策だけで実現可能だろうか。また、団塊の世代が老齢化する中で団塊ジュニア世代が「一人も介護を理由に仕事を辞めることのない社会」をつくるというが、これが従来通りの「老人介護は国と社会が担当する」という発想で果たして達成できるだろうか。
首相は組閣後の記者会見で、今後3年間で「時代が求める憲法のかたち、国の姿についても議論を深めていく」と述べた。個人だけが重視される戦後の憲法の下で形成された労働慣行や社会保障が少子高齢化社会の入り口に入った現在、限界を露呈している。憲法改正は第9条の改正だけではない。1億総活躍社会を本当に実現しようとすれば、家庭の役割の拡大や働き方の多様化などを含め、このような根本的な問題を柔軟な発想で整理していくことを避けて通ることはできないはずだ。
具体策を提示し、目に見える実績を早期に出せるのか否か。首相の手腕が問われている。
(政治部・武田滋樹)