急所突かれた北朝鮮
予想外の決裂に終わった2回目の米朝首脳会談。今後、最大の懸案である北朝鮮の非核化や北東アジア情勢にどのような影響が出てくるのか。米朝両国と関係周辺国の立場から探った。
寧辺以外の核施設指摘
制裁緩和なく経済建設に支障
「米国は寧辺核施設の廃棄以外にさらにもう一つの措置を行うべきだと最後まで主張した」
会談決裂後、記者会見を開いた北朝鮮の李容浩外相はこう述べた。今回の会談で北朝鮮は老朽化した寧辺核施設を米国に差し出すことで制裁緩和を引き出す戦略だったとみられるが、米国は「寧辺以外の別の場所にウラン濃縮施設を発見し、この事実を突き付けられた北朝鮮が慌てた」(韓国紙・朝鮮日報)ようだ。北朝鮮としては非核化の急所を突かれたわけだ。
北朝鮮の核開発問題に詳しい韓国の金泰宇・元統一研究院長は「寧辺以外に北朝鮮が重視しているのがまさにウラン濃縮施設。今回の会談で米国は北朝鮮がウラン濃縮施設を温存させようとしていることをはっきり悟ったに違いない」と指摘する。
李外相の会見に同席した崔善姫外務次官は「米国は千載一遇のチャンスを逃した」と強弁したが、北朝鮮こそ大きな打撃を受けたといえる。トランプ米大統領が初めて北朝鮮ペースに乗らない決断を下したからだ。
米国から制裁緩和を引き出せなかった北朝鮮にとって頭が痛いのは、すでに昨年4月に宣言した経済建設路線に支障を来す公算が強まったことだ。「制裁が緩和されない以上、経済建設に必要な外貨調達が難しくなる」(元韓国政府高官)ためだ。
そもそも北朝鮮が米国との首脳会談に強い意欲を示してきた背景には、国際社会の対北制裁強化で国内経済が逼迫(ひっぱく)する恐れがあると判断したためといわれる。制裁網を潜(くぐ)り抜け石油などを海上で船に積み替えて密輸する「瀬取り」は危機感の裏返しだ。当てにしていた制裁緩和は会談決裂で遠のき、経済建設の青写真に狂いが生じるのは避けられない。
金正恩朝鮮労働党委員長は会談決裂にもかかわらずトランプ氏との別れ際、笑顔を見せた。米国との関係を決定的に悪化させたくはない複雑な心境が反映されていたとみられる。翌朝、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は会談決裂には言及せず、両首脳が「知恵と忍耐を発揮して難関と曲折を乗り切るなら朝米関係を画期的に発展させられるとの確信を表明した」と伝えた。苦境に立たされた北朝鮮としては米国との対話を断つわけにはいかない。
北朝鮮に劣らず会談決裂に困惑しているのが韓国・文在寅政権だ。青瓦台(大統領府)の金宜謙報道官は会談結果について「完全な合意に至らず残念」と述べた。昨年3度行った南北首脳会談はいずれもまずは米朝会談で双方が合意に達することに焦点を当てた事実上の仲介会談だったからだ。
金正恩氏は今日、ベトナムでの日程を終え帰国の途に就く予定だが、途中で中国・北京に立ち寄り習近平国家主席に会談の報告をする可能性がある。また文大統領と4回目の首脳会談を行うのではないかという観測も出ている。
ただ、中国の後ろ盾、韓国の全面的理解と協力を追い風に推し進めてきた従来の対米交渉が「成功」するのかは今回の会談決裂で読み切れなくなった。金正恩氏の「次の一手」に関心が集まりそうだ。
(ハノイ・上田勇実)

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