石川県輪島市・舳倉島 日本海に浮かぶアワビの宝庫
北朝鮮漂流船に顔曇らす
石川県能登半島沖の日本海に浮かぶ舳倉島は、輪島市から約50㌔離れ、周囲約5㌔、面積約55㌶の小さな離島だ。最高部が標高15㍍と平坦で、火山の噴火活動による安山岩で形成されている。夏場は海女漁が盛んでアワビやサザエ、海藻が獲れ、磯釣りの太公望が押し寄せる。さらに日本有数の渡り鳥の一大オアシスとあって、渡りの季節にはカメラを抱えたバードウオッチャーが大挙して来島する。
昨年11月下旬、へぐら航路㈱が運航する定期船「ニューへぐら」(119人乗り)で島へ渡った。当日は「この時期にしては珍しいほど波が穏やか」と機関長が驚くほどの好天に恵まれ、午前9時に輪島港を出港。島に渡るにはこの1便だけだ。
乗船客は40人余り。ほとんどが下水道工事の関係者と島民たち。島民は舳倉島と本土の輪島市海士町に住居があり、冬場は島で獲れた海産物の在庫を取りに島に渡る。ちなみに観光客は金沢から来た学生2人と記者の3人だけだった。彼らは「県の最北端の島だから、前から一度渡ってみたかった」と乗り込んだ。
1時間半ほどで舳倉島港に着いた。揺れの少ない快適な船旅で、上陸すると“島民の足”として活躍する三輪自転車が出迎える。船で届いた荷物を荷台に積み込むと、せわしなく家路へと散って行った。冬季は出航が午後2時とあって慌ただしい。自動車は消防、医療用車両以外はなく、島民の申し合わせで、環境保全のためエンジン車は使っていない。コンビニや雑貨店は1軒もなく、港に自販機があるだけ。冬季以外は民宿が2軒営業している。同航路によれば、定期船の利用者は島民、観光客合わせて年間9000人余りだ。市住民課によれば、島の人口は漁労従事者ばかり100人余りだが、冬は引き上げて越冬するのは数人という。
港前の地図で島全体を把握した。港のある南側に民家が密集し、北側は日本海の荒波や強風を直接受け、複雑な入り江や断崖が続いている。入り江の先端には漁の安全を祈って祠が鎮座し、その数は七つを数える。遊歩道が島を1周し、1時間ほどで巡れる。
時計周りで東側からたどった。民家を過ぎるとゴツゴツした安山岩の岩場が続き、北側に出ると、ツワブキの群生が黄色い花を付けていた。恵比寿神社と金毘羅神社、八坂神社の祠が見えてくる。どれも周囲をがっちりと石積みし、強風を防いでいる。祠のそばにはケルン(山だめ)と呼ばれる石積みの塔が建ち、島全体で約70基という。
高さは1~1・5㍍ほどで、海女たちの潜水の目印だそうだ。船内でケルンの石を持ち出したり、崩したりしないようにアナウンスがあった。
島の中央に高さ33・5㍍の舳倉島灯台が建ち、その近くに海水を浄化して飲用水にし、島内に配水する「へぐら愛らんどタワー」が並んでいる。こちらは高さ21㍍で、内部は観光客向けに、舳倉島の自然や輪島市の祭祀などがパネルで紹介されている。
北朝鮮の木造船が日本海沿岸に相次いで漂着しているが、昨年12月15日の時点で、舳倉島には不審船は流れ着いていない。しかし、密漁船が操業する大和堆の海域から300㌔しか離れておらず、民宿の女将さんは「これまで穏やかな島だったが、物騒な時代になった。なんも起きんといいけどね」と顔を曇らせた。
※メモ 定期船「ニューへぐら」の運賃は大人4520円(往復)。1日1便で舳倉島港を夏季が午後3時、冬季は午後2時に出航する。
(日下一彦、写真も)