大量廃棄のホヤ、新メニューで食文化救う


《東日本大震災10年 未来に繋げる希望(2)》

 でこぼこした見た目から、「海のパイナップル」とも呼ばれる海産物「ホヤ」。東北でよく食されるが、水揚げから時間が経(た)つと独特な風味が強くなるため、地域によってはほとんど知られていない。

「ほやほや屋」をオープンした佐藤文行さん=本人提供

「ほやほや屋」をオープンした佐藤文行さん=本人提供

 東日本大震災前の2010年、ホヤの国内生産量は1万㌧を超えており、そのうち最大の産地、宮城県は84%を占めていた。その多くは国内より需要のある韓国へと輸出。韓国では一時期、宮城県三陸町のホヤがブランドだった。

 だが、大震災後、韓国が原発事故を理由に輸入を停止。その結果、国内で過剰供給状態となり、多くのホヤが補助金を使って廃棄されてきた。日本政府は15年に韓国の禁輸解除を求めてWTO(世界貿易機関)に提訴したが、19年4月、日本の逆転敗訴となる判断が下された。ホヤ養殖を廃業する漁師も後を絶たない。

 そんな中で、捨てられているホヤをもっと多くの人に食べてもらいたいと、新しくホヤ料理店を開いた人がいる。2017年、それまで水産加工会社の社長だった佐藤文行さん(61)は、ホヤ料理店「ほやほや屋」を宮城県塩竈市にオープン。現在では2号店(仙台市)も出店している。

 佐藤さんにとって、ホヤは子供の頃から慣れ親しんだ食べ物だ。そのホヤが大量に捨てられ、漁師たちが東京電力から補償金をもらっているという現状に、「いくら何でもそれは違う」と、やりきれない思いに駆られた。愛着のある地域の食文化を救うのは、自分たちで食べてこそという思いが出店の決意につながった。

 「ほやほや屋」では、ホヤの空揚げやしゃぶしゃぶ、カルパッチョなど、さまざまな創作メニューを提供している。試行錯誤の中で、ホヤがチーズやオリ-ブオイルなどと相性が良いことも発見し、ワインに合う食べ物として提案するなど、新しいイメージの普及にも積極的だ。

 「ホヤの一番の弱点は、入り口が生(なま)しかないことだ」と佐藤さんは指摘する。ホタテやカキは、生のまま食べるのが苦手でも、揚げ物やバター焼きなど料理方法が豊富で、自然とマーケットが大きくなる。

 だが、ホヤの場合、刺し身や酢の物など、食べ方が限定的と佐藤さんは嘆く。「『たくさんホヤを食べよう』と呼び掛ける人は多いが、食べ方が酢の物だけでは無理。(料理開発の中で)『これならいける』という料理だけを残してきたが、ホヤにはまだまだ可能性はある」と意気込む。

 佐藤さんが挑むのは、食べ方だけではない。水揚げ後の処理・流通の方法にも力を入れる。「いくら鮮度を保持していても匂いが出てしまうのは、中で糞(ふん)がたまっているから。水揚げ後すぐ処理をして、むき身で冷凍すれば一年中匂いやえぐみのないホヤを食べられる」と説明する。

 だが、新鮮に見えるという理由で、殻を付けたまま流通させるのが一般的だったため、水揚げ直後に処理することだけでも周囲からは否定的に捉えられた。「教科書にないことをやるのが一番大変。まさに自分で教科書を書いているようなもの」と苦労を語る。

 最近では佐藤さんに共感し、協力する漁師や加工業者も出てきた。オンラインでも冷凍ホヤを販売しており、リピーターや県外ファンが増えている。加工品のホヤを詰め合わせた、お中元・お歳暮ならぬ「ほ中元」「ほ歳暮」も好評だった。

 佐藤さんは「3年前と比べればかなり浸透している」としながらも「新型コロナの影響で注文が伸びない。(需要が広がるには)何かきっかけが必要」と壁も感じている。ホヤの魅力を伝える奮闘はこれからも続く。

(東日本大震災10年取材班)