避難指示続く福島・大熊、全面解除へ希望つなぐ
政府が方針、20年代に解除へ、帰還希望増も6割「戻らず」
東京電力福島第1原発事故から11年。政府は2021年8月、福島県内で避難指示解除の見通しが立っていない地域について、住民の帰還意向に応じて除染作業を行い、20年代に解除する方針を初めて示した。ただ、地元は全面的な除染を求める声が根強く、課題は山積している。
帰還困難区域は県土面積の約2・4%に当たる約337平方キロメートル。うち約8%は22~23年に先行して避難解除を目指す「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)に指定され、大熊、双葉両町などでは居住再開に向けて自宅で寝泊まりできる「準備宿泊」が始まっている。
大熊町の吉田淳町長は「全域の解除が大原則なのは変わらない」とした上で、「そればかり言っていたら停滞してしまう。一歩前進と捉えて(全面除染の)訴えも並列的に続ける」と話す。
同町で農業を営んでいた中野高重さん(78)は、自身の田畑が復興拠点外にあり、避難解除を待ち望む一人だ。「早く除染してもらい、農作業をしたい。全域が解除になって『いつでも戻っていいよ』と言われたら、皆も帰りやすくなるのでは」と期待する。
復興庁が21年11月、避難先の町民を対象に行った意向調査では、「戻りたいと考えている(将来的な希望も含む)」を選んだ人が13・1%と、20年度から3・5ポイント上昇した。町の担当者は「政府の方針が出て、考えの変わった人が増えた」と受け止める。
ただ、「戻らないと決めている」が57・7%を占め、避難が長期にわたり、避難先で生活基盤を固めた住民も多いのが現状だ。
復興庁関係者は「帰還を希望するのは高齢者が多い。帰りたい人を優先し、できるだけ早く除染を行う必要がある」と説明。
国と自治体は住民説明会を開き、複数回にわたって帰還の意向を確認していく方針で、24年度から希望世帯の除染を開始する見通しだ。
このほか、帰還する意向のない土地や建物の扱いをどうするかや、放射線量に対する不安の払拭(ふっしょく)などの課題も残されている。国は地元に寄り添った対応が求められる。