10年前の上皇陛下の心臓手術「本当に良かった」
執刀医の天野篤さん、陛下が示した「公平の原則」目指す
上皇陛下が在位中の2012年2月に心臓手術を受けられてから18日で10年。昨年12月に米寿を迎え、健やかに生活している。執刀医の天野篤・順天堂大医学部特任教授(66)が時事通信のインタビューに応じ、「ある程度健康を維持できれば良いという考え方もあるが、若い人と同じような手術をやっておいて本当に良かった」と振り返った。
手術1週間前の検査で、3本の冠動脈のうち、2本の狭窄(きょうさく)の進行が判明。生活の質の向上を目指して手術が決まった。「状況によっては手術になると思うので、遠くに行かず待機していてほしい」。当時の金沢一郎皇室医務主管(故人)からこう声を掛けられた。執刀の際は、国民の期待を背負ったプレッシャーと「業界代表」としてのプライド、「いつも通りのことをやるだけ」という三つの感情が入り交じっていた。
手術は予定通り終わり、3カ月後の上皇陛下御夫妻の英国訪問で成功を確信した。ただ、脳梗塞予防目的で心臓の左心耳(さしんじ)への処置も行ったため、手術の5年後まで緊張は続いた。
上皇陛下は手術から10カ月後の記者会見で、今後の公務について、「公的行事の場合、公平の原則を踏まえてしなければならない」と答えた。この言葉が「心にぐさっと刺さった」という。公務のため病室にワープロを持ち込み、東日本大震災の被災地など全国をくまなく訪れる姿を思い、「患者さんに差をつけずに接してきたつもりだったが、結局は自分自身のためにやっていないか」と過去の自分が揺らいだ。
それからは、上皇陛下が示した「公平の原則」に「少しでも近づきたい」との思いで仕事に励み、「真の外科医として変わった」と語る。上皇陛下と直近で会ったのは19年12月23日。誕生日を祝う茶会で、「変わりなくお元気だった」という。
退位まで「全身全霊」で続いた上皇陛下の活動により、「国民はみんな心が救われた。その一つの歯車として、すごく貴重な経験をさせてもらった。この10年間は非常に充実した外科医としての時間を過ごせた」と話した。昨年3月に順大医学部教授を退任後も、後進を育てながら年約250例の執刀を続けている。今後は「アジアの人たちに自分の経験を提供したい」と語った。
上皇陛下の心臓手術
上皇陛下が在位中の2012年2月18日、78歳の時、東大病院で受けられた心臓の冠動脈バイパス手術。3本の冠動脈のうち、2本に血管の狭窄(きょうさく)が判明し、狭心症と診断されたため、狭窄した部分を迂回(うかい)するバイパスをつくった。東大と順天堂大の合同チームにより、約4時間で無事終了。手術中に不整脈が確認され、脳梗塞を防ぐ目的で心臓の左心耳(さしんじ)への処置も同時に行った。
上皇陛下は3月4日に退院。東日本大震災から1年の同11日に政府主催の追悼式に出席し、5月に公務で仙台市の仮設住宅などを訪れ、エリザベス女王の即位60年祝賀行事出席のため訪英された。