「子、孫に会いたい」、北朝鮮政府へ賠償訴訟
「地上の楽園」、渡航後は人権を侵害、来年3月に判決
在日コリアンやその家族らに「地上の楽園」などと帰還を呼び掛け、渡航後は基本的人権を侵害したとして、脱北者の男女5人が北朝鮮政府を相手取り、計5億円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が14日、東京地裁(五十嵐章裕裁判長)であった。原告の本人尋問が行われ、原告は「(北朝鮮に残る)子と孫に再会したい」などと訴えた。
原告弁護団によると、国内で脱北者が北朝鮮政府を相手に起こした訴訟は初めて。北朝鮮側は出廷せず、即日結審した。判決は来年3月23日。
原告の一人で、17歳だった1960年に渡航した川崎栄子さん(79)は、現地の食糧事情が悪く「赤トンボを捕まえ、乾燥させて食べた」と明かした。
国民に餓死者も出る中、1人で脱北を決意。日本に帰国後も北朝鮮に残した家族と電話で連絡が取れていたが、新型コロナウイルス流行前の2019年11月を最後に音信不通となったという。北朝鮮での経験を突然思い出すこともあるとし、「暗い中で眠れない」と話した。
東京地裁は提訴後、訴訟当事者の所在地が外国の場合に行われる「公示送達」手続きを実施。地裁前には今年8月、「金正恩・国務委員会委員長」宛てに呼び出しを告げる貼り紙が掲示された。
訴状によると、北朝鮮は在日本朝鮮人総連合会を通じ、衣食住が保障されているなどと宣伝。虚偽情報で5人は1960~72年に渡航することになり、原告側は「国家誘拐行為」と主張している。残した家族の出国が許されず、面会や交流の権利も侵害されたと訴えている。