高知県室戸市、漁師が故郷の海中ごみを拾う
「昔の海を取り戻したい」、ごみを浮かべた企画展も
高知県室戸市で、漁師をしながら故郷の海のごみを1人で回収している男性がいる。舛田清隆さん(43)は「20年先のことを考えたら、誰かが手を打たなければと思った。1人でもできることをやっていく」と話す。市内の水族館ではごみを水槽に浮かべた企画展を開催中。海洋資源に恵まれた市で、海中ごみに関する独自の取り組みが続く。
室戸市出身の舛田さんは、埼玉県の古紙リサイクル会社で取締役をしていた。仕事が減り、新たな事業を模索する中、子供の頃よく泳いだ故郷の海が頭に浮かんだ。水産業への挑戦に、周囲から反対されたが、「挑戦したいならすぐに行動しなさい」という義母の言葉に背中を押され、2019年に妻と4人の子供を残し、単身で故郷に戻った。
現在は「ツベタカ」という希少な巻き貝を採取。身が引っ込むとハンマーで殻を割る煩わしさを逆手に取り、「日本一取り出すのに苦労する貝」として販売している。
沿岸で素潜り漁をしていて、海中ごみの多さに気付いた。空き缶やポリ袋以外にも、バイクや船のエンジンを発見。不漁時に「手ぶらで帰るよりは」と少しずつごみを回収し始めた。
「漁の拠点となる港は不法投棄も多くて汚い。捨てている人は自宅の庭にもごみを捨てられるのか」と憤る。分別して捨てる際、裂けた空き缶や釣り針で手をけがしたこともある。「昔は室戸の至る所にいたツベタカも今は全く採れない。魅力にあふれていた昔の海を取り戻したい」。インターネット交流サイト(SNS)などで啓発を続けた結果、地元の人も海にごみを捨てるのをやめるようになったという。
一方、市内の「むろと廃校水族館」で開催中の企画展「あたらしい海の仲間たち」では、魚がいた水槽に、釣り具やカメの腸から見つかったポリ袋がゆらゆらと漂う。企画した若月元樹館長(46)は「水中をリアルに表現するのも面白いと思った。カメが間違ってポリ袋を食べるといった海の現実を実際に見られる場を提供するのも、水族館の役割だと思う」と語る。