揺れる難民大国トルコ、排斥の動き目立ち始める
エルドアン政権が方針転換、シリア人ら送還加速も視野
シリアやアフガニスタンなどから400万人を超える難民らを受け入れてきたトルコで、排斥の動きが目立ち始めた。これまで「イスラム教徒の同胞」として寛大な姿勢を示してきたエルドアン政権は、難民流入を抑制する方針に転換。欧州各国が追加受け入れに消極的な姿勢を示す中、出身国への送還加速も視野に入れている。
首都アンカラのアルトゥンダ地区では8月11日、トルコ人青年殺害容疑でシリア人が逮捕された事件に激高した市民数百人が通りに繰り出して暴徒化し、シリア人の家や商店、車などを襲った。新型コロナウイルス禍が長期化する中、トルコ市民の間では「賃金の安い難民に仕事を奪われている」という不満が広がっていたことが襲撃の背景にある。
暴徒に危害を加えられ、5歳の息子が負傷したシリア出身のハリル・フドゥトさん(39)は「容疑者のシリア人のことは知らない。こんな目に遭うなんて」と恐怖におののく。今は家族でアンカラの別の地区に逃れ、一家の境遇に同情するトルコ人の支援を得て暮らす。一家はシリア内戦で混乱を極めた同国南東部アブカマルからトルコに逃れてきた経緯があり、祖国に戻るのは難しい状況だ。
トルコ当局は暴徒化した人々を拘束して刑事責任を追及する一方、シリア人が暮らす建物を「犯罪の温床になっている」として解体するなど、市民の不安解消のための強硬措置に乗り出した。
シリア難民のムスタファ・メジュミさん(42)は9月11日、アルトゥンダ地区でがれきの中から家財道具を掘り出していた。「5日前に突然、家族と暮らしていた家を破壊された。これからどう生きていけばいいのか」と悲嘆に暮れる。
チャブシオール外相は12日、「トルコで社会不安が広がっており、解決策を見つける必要がある」と述べ、難民の送還を進める必要性を訴えた。
これについて、同地区のトルコ市民からは「シリア人には出て行ってほしい」「悪い人ばかりではない。戦争が続く国にどうやって帰すのか」と賛否両論が聞かれた。(アンカラ時事)