女子マラソン道下美里、悲願の金メダルに涙


つかんだ「5年前の忘れ物」、パラ新記録も樹立

女子マラソン道下美里、悲願の金メダルに涙

陸上女子マラソン(視覚障害T12)でゴールする道下美里(左)=5日、国立競技場

女子マラソン道下美里、悲願の金メダルに涙

東京パラリンピックマラソンコース

 「5年前の忘れ物を取りにいこう」。そう誓って女子マラソン(視覚障害T12)に臨んだ道下美里(三井住友海上)。歓喜の笑みを浮かべて先頭でゴールテープを切った。「幸せだな」。銀メダルだった前回リオデジャネイロ大会の表彰台で流した悔し涙は、うれし涙に変わった。

 淡々と自分のペースを刻むうちに、ロシア・パラリンピック委員会(RPC)選手とのマッチレースに。30キロ地点で、伴走の志田淳さんはライバルのペースが下がったのを感じ取った。「いけるか」「いける」。あうんの呼吸でスパートをかけ突き放した。「最高の準備をして、思い通りのレースをできた」(道下)。悲願の金メダルに、3時間0分50秒のパラリンピック記録もついてきた。

 中学2年の時に角膜の難病で右目の視力を失い、25歳で左目もほとんど見えなくなった。ダイエットで始めた陸上競技にのめり込み、中長距離からマラソンに転向して才能が開花した。

 「過去の自分を超えたい」。その一心で、たゆまぬ努力を続けてきた。体幹や筋力の強化のほか、故障予防のために栄養面の改善にも取り組んだ。会心のレースを終えても、「欲を言えば、サブスリー(3時間切り)で終わりたかった」と笑うほど。44歳の向上心が尽きることはなかった。

 東京パラのために、拠点の福岡で数多くの市民ランナーと走り抜いた5年間。「最高の伴走者と最強の仲間がいたので、ここにたどり着いた。みんなで祝福したい」。表彰式では自身よりも先に、前半を伴走した青山由佳さんの首に金メダルを掛けた。仲間を思い、仲間に支えられて走った先に、栄光のゴールが待っていた。