車いすテニスの国枝慎吾、男涙きの金メダル
柔軟な体活かし王者の対応力、信じられない復活劇
万感の思いが涙になる。車いすテニス男子シングルスで、国枝慎吾(ユニクロ)がパラリンピック王者に返り咲いた。「一生分泣いた」。身にまとった日の丸に顔をうずめ、男泣きした。
相手のトム・エフベリンク(オランダ)は、新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期された間に肘を手術して不安を解消し、格上を破って決勝まできた。油断はできない。強烈なサーブと鋭いスライスもやっかいだ。その難敵から、国枝は世界最高峰の対応力で主導権を奪った。
エフベリンクに左右に振られても、持ち前の素早い車いすさばきでボールを拾い、順回転をかけたバックハンドを放った。これが相手コート深くに入ると、自分が前に出る時間を稼げる。この5年で洗練させてきたネットプレーを繰り出し、反撃の余地を与えなかった。
体勢を崩されても正確に力強い返球ができるテニスは、生まれ持った柔軟性があってこそ。前回のリオデジャネイロ大会後からトレーナーを務める北嶋一紀さんによると、国枝は背骨の柔軟性が群を抜いている。このため「ラケットを伸ばしてもショットが乱れない。天性のものだ」。世界トップレベルの車いすさばきも、肩甲骨の可動域が広いからなせる技だ。
右肘の痛みとも闘ったこの5年の復活劇。国枝は「99・9%信じられなかった」と言った。パラリンピックで単複合わせて4個目の金メダル。男子では歴代単独最多となる。第一人者を彩るのにふさわしい新たな記録だ。