杉浦選手、励ましに応え日本人最年長の「金」
転倒事故から再起、「お世話になった方々に恩返しできた」
東京パラリンピックの自転車ロードタイムトライアル(運動機能障害C1~C3)の杉浦佳子選手(50)=楽天ソシオビジネス=が、日本人最年長となる金メダルを獲得した。「頑張る姿を見て喜んでくれる人」のためにペダルを踏み、快挙を達成した。
薬剤師の傍ら参加した自転車の大会で、転倒したのは2016年。全身の骨折やくも膜下出血で高次脳機能障害が残った。事故直後の記憶はほぼないが、医者に「どうして死なせてくれなかった」と詰め寄ったことは覚えている。家族や友人の顔も忘れ、簡単な計算や漢字も分からなかった。
リハビリは周囲の支えが励みとなった。自転車仲間は一緒に訪れた場所の写真を送り、友人は自作のクイズやドリルを用意。医者も驚く早さで回復した。
障害者手帳を見て復職は無理だと感じたが、「せめて薬に触れる職業を」と応募したドラッグストアで採用された。担当者から「君ほど患者の気持ちが分かる薬剤師はいない」と言われたという。
再び自転車にまたがると、後遺症の影響で平衡感覚などに問題はあったが、「事故の恐怖は都合よく忘れ、最初から乗れた」。練習する姿が関係者の目に留まり、退院後1年足らずでレースに出場。17年には世界選手権で優勝した。一躍東京大会のメダル候補となり、「そんなに期待してくれるなら」と競技に専念することを決めた。
絶好調の中、大会の1年延期が決まり、「50歳だと力が落ちる」とショックを受けた。だが、コーチの「49歳と50歳は誤差だよ」という冗談で不安は吹き飛び、「競技歴が浅い分、記録を伸ばせる」と腹を決めた。この日のレースも懸命にペダルを踏み、「お世話になった方々に恩返しできた」と笑顔を見せた。