延期中死去のアーチェリー代表、遺品携え大会に


2月に死去した仲喜嗣さん、思いは共にパラリンピックへ

延期中死去のアーチェリー代表、遺品携え大会に

オランダで開かれた世界選手権で3位となり、パラリンピック出場枠を獲得した仲喜嗣さん(左)。右はペアを組んだ岡崎愛子選手=2019年6月(日本身体障害者アーチェリー連盟提供)

 コロナ禍で延期された東京パラリンピック。代表に内定しながら、この1年間で病魔に倒れ、夢を果たせなかった選手がいる。今年2月に60歳で死去したパラアーチェリーの仲喜嗣さん。活躍を誓い合った仲間は、遺品を携えて大会に臨む。

 「あれだけパラを目指し頑張っていた人が。こんなことがあっていいのか」。代表の上山友裕選手(33)は、突然の訃報に言葉を失った。「父を亡くした時ほどのショックで、ひたすら泣き続けた」と振り返る。

 筋萎縮などが生じる難病「AAA(トリプルエー)症候群」を発症し、車いす生活になった仲さん。40代で競技を始めると、気さくな人柄で若手からも慕われた。2019年6月の世界選手権で男女混合の3位となり、出場枠を獲得。初めてのパラ代表に内定した。

 「よかったー」と大きな声で喜びを爆発させる姿に、上山選手は「何大会も出たくて出られなかった人は、こんなにうれしそうな顔をするんだ」と感動したという。

 聖火ランナーにも選ばれ、手術を先延ばししてまで大会に備えていたというが、1年の延期が夢の舞台を奪う結果になった。

 葬儀では愛用の道具も並べられ、矢を入れる「クイーバー」が上山選手の目に留まった。会場に持って行きたいと仲さんの妻奈生美さんに申し出ると、「連れて行ってあげて」と言われ、「2人で行ってきます」と返事した。

 出場枠を取った世界選手権でペアを組んだ岡崎愛子選手(35)は会場に仲さんのユニホームを飾るつもりだ。「とにかく勝負強い人で、大会に懸ける強い思いを目標にしていた」といい、「一緒に戦って、後押ししてくれる」と信じている。

 仲さんの代役で代表に選ばれた大山晃司選手(29)は「特別なことはせず、結果とプレーで思いを示す」と決意を固める。仲さんは自分を成長させてくれたライバル。「本当はこんな形ではなく、勝って代表を取り『かなわない』と言わせたかった」と話す。

 代表に選ばれたことを奈生美さんに報告した。「日本のために、仲のために、メダルを取ってください」と励まされ、かなわなかった夢を代わりに果たすと約束した。