墜落で父を亡くした娘「日常がどんなに大事か」


事故を伝える活動に関わる内野理佐子さん、今年も山へ

 

墜落で父を亡くした娘「日常がどんなに大事か」

日航機墜落事故で亡くなった南慎二郎さん(遺族提供)

 520人が犠牲になった日航ジャンボ機墜落事故から12日で36年。父、南慎二郎さん=当時(54)=を亡くした内野理佐子さん(61)は「ささやかな日常がどんなに大事か、失って初めて思い知った」と当時を振り返る。

 出張の帰りにお土産を買ってくれたり、習い事の送り迎えをしてくれたりする、子煩悩な父だった。小学生の頃には、児童会の役員選挙への出馬も後押ししてくれたといい、「いつもハッパを掛けてくれたので、いろいろなことに挑戦できた」と話す。

 事故当時、内野さんは25歳。テレビの一報は父の大阪出張と結び付かず、人ごとのように見ていた。

 事故機に乗っていたと分かり駆け付けたが、2週間待っても父は見つからなかった。「本当は乗っていないのでは。奇跡が起きないか」。

 頭の中をさまざまな思いが駆け巡った。遺体は見つからず、後に歯のブリッジだけが発見された。

 この36年間、大きな事故や災害が起こるたびに、「家族を突然亡くす悲しみは同じかもしれない」と感じ、胸を痛めてきた。

 2005年のJR福知山線脱線事故では、「防げたかもしれない事故のせいで、朝家を出て行った家族が帰らぬ人となる。共通のものを感じた」。今年の熱海市の土石流災害でも、いまだ行方不明の人の家族に思いをはせ、「早く見つかってほしい」と願う。

 年月がたち、増えてゆく事故を知らない世代に、「命と日常の大切さ、それが簡単に失われてしまう危険性を伝えたい」と話す。15年ごろからは、他の遺族と共に事故を伝える活動に関わる。

 既に事故当時の父の年齢を超え、昨年3月には孫が誕生した。幸せをかみしめる一方で、孫の成長を見て過ごす機会を失った父を、改めてかわいそうだと感じる。

 新型コロナウイルスの影響で昨年に続き命日の追悼慰霊式は縮小され、遺族は参加できない。それでも内野さんは、夫と息子と共に山を登り、父の墓標に思いを伝えに行く。「家族は元気で暮らしています。これからも見守っていて」