レスリングの文田健一郎は「銀」、雪辱を誓う
徹底して反り技を警戒された今大会、投げを封じられ完敗
重い扉をこじ開けることはできなかった。グレコローマンスタイルで日本勢37年ぶりの金メダルを狙った文田は、決勝で散った。試合後は両膝に手をつき、しばらく動けない。号泣していた。
オルタサンチェスは強敵だった。圧力をまともに受け、開始直後から劣勢を強いられた。腹ばいで相手に背後を取られた体勢で再開するパーテールポジションを宣告され、リフト技を防げずに失点を重ねた。前半は0-4。第2ピリオドも脇を固く締めた相手を攻略できず、得点は1点だけ。完敗だった。
今大会は徹底して反り技を警戒された。準決勝までは他の技術で得点できたが、決勝では通用しなかった。「自分の形をさせてもらえないということは分かっていたことなので。その研究の上をいけなかった自分の実力不足」。コロナ禍で海外勢との手合わせが不足したことも影響したのか。世界選手権を2度制した文田にとっても、初めての五輪は勝手が違った。
常々「グレコの魅力を多くの人に伝えたい」と言ってきた。上半身のみの攻防。足へのタックルは許されず、力と力のぶつかり合い。そして豪快な投げ技が勝負を分ける。そんな特性に引かれてきた。自国開催の五輪で頂点に立ち、競技をアピールしたい気持ちは強かった。
リオデジャネイロ五輪銀メダリストで、日体大の先輩に当たる太田忍と激しく五輪代表の座を争った。「忍先輩を超えたい」と意気込んで乗り込んだ東京五輪。「期待に応え切れなかったのがすごく悔しい。もう一度、勝てるレスリングというものを身に付けたい」。雪辱を誓い、3年後のパリ五輪に目を向けた。