文田選手、中高時代に父と磨いた美しきアーチ


代名詞は猫のごとく豪快な「反り投げ」、決勝では惜敗

文田選手、中高時代に父と磨いた美しきアーチ

文田健一郎選手の代名詞「反り投げ」は、アーチを描くように反り返り、相手を後方に投げる=2017年(父敏郎さん提供)

文田選手、中高時代に父と磨いた美しきアーチ

レスリングの文田健一郎選手(左)と韮崎工業高校監督の父敏郎さん=2017年(父敏郎さん提供)

 レスリング男子グレコローマン60キロ級で銀メダルを獲得した文田健一郎選手(25)=ミキハウス=。代名詞の技は山梨県立韮崎工業高校監督の父敏郎さん(59)と中高時代の6年間磨いた「反り投げ」。相手を豪快に投げる姿は美しいアーチを描き、「猫レスラー」の異名を持つ。

 性格は「能天気」(敏郎さん)。物心つく頃から学校のマットの上で遊んだ。だが小学生の頃は、後にロンドン五輪で金メダルを獲得する米満達弘選手らを父が指導する様子に、「大変そうだから、俺はいいや」。稽古に来ていた1学年上の女子と渋々スパーリングを続けるうちに、中学1年で試合に出ることに。「指導者の息子が何もできないと格好悪いぞ」「じゃあ練習する」。そこから父と子の猛特訓が始まった。

 高校生が休む日曜の早朝から昼すぎまで稽古。体幹を鍛えるマット運動や、ブリッジを入念にやった。タックルは大の苦手で、投げ技に徹した。中でも反り投げは、何万回やったか覚えていないほど。敏郎さんは「相手がこらえようとしても、あとは回るしかない」と話す。技は、面白いように掛かった。

 高校2年の時、ロンドンで米満選手の勇姿を目の当たりにし、「確固たる思い」が芽生えた。その後、高校時代のタイトルは総なめにした。

 息子と歩んだ6年間を「一番幸せな時間」と振り返る敏郎さん。「私の指導を理解して、どんどん変わっていく。わくわくしていた」と振り返る。

 リオデジャネイロ五輪の出場は逃したが、2017年と19年に世界選手権を制覇。「いけると思った瞬間には相手が飛んでいる感覚」と、反り投げに絶対の自信を持つ文田選手。五輪の頂点を狙ったが、決勝は攻め手を欠いて惜敗し、涙に暮れた。