コーチと二人三脚で苦節10年、挑戦した世界
カヌースラローム足立和也選手、悔しさが残る準決勝敗退
「世界トップの景色を見てやろう」。カヌースラローム男子カヤックシングル足立和也選手(30)=ヤマネ鉄工建設=が五輪に初出場し、30日の準決勝で敗退した。世界を知る市場大樹コーチ(44)と二人三脚で歩んで10年。資金難を共に乗り越え、挑んだ大舞台は悔しさが残る結果となった。
2011年、チェコの元トップ選手に師事した経験のある市場さんに、大学生だった足立選手から相談があった。初出場のワールドカップ(W杯)で力の差を思い知ったといい、「競技をやめようと思う。先が見えてこない」。3年前の世界ジュニア選手権で全体3番目のタイムをたたき出した有望選手からの、失意の連絡だった。
「一緒に世界のトップになろう」。指導者への本格転向を考えていた市場さんの言葉に、足立選手は大学を中退し、市場さんが拠点にする山口県萩市に移住。二人三脚が始まった。
スポンサーはなく、木造長屋に2人で住み食費も切り詰めた。本場欧州への遠征費も1人分がやっとで、市場さんが両親から資金を借りることも。日本選手権を3連覇したが、リオデジャネイロ五輪は代表から落選。資金はほぼ尽きた。
リオ直後のW杯で日本勢初のメダルを獲得しながら、選手生命の危機に。そんな時、市場さんの師で、幼少期から足立選手を知る元代表の小田弘美さん(57)が、資金集めを買って出てくれた。小田さんは「和也はプロとアマのはざまでもがいていた選手の一人」と振り返る。
息を吹き返した足立選手はW杯で再びメダルを獲得。トップパドラーに仲間入りした。満を持して臨んだ五輪は予選を6位通過したものの、上位10人の決勝進出を懸けた準決勝は16位。レースを終えた船の上には、10年の重みをかみしめるようにうずくまる足立選手の姿があった。