藍色の表彰台、3Dプリンターで未来の物作り
慶応大・田中浩也教授チーム、「跳躍サイクル」を実現
メダリストらが万感の表情で立つ東京五輪の表彰台。大会公式エンブレムを思わせる藍色に幾何学模様の浮き彫りが印象的な「晴れの舞台」は、洗剤の使い捨て容器などから3Dプリンターを使って生み出された。設計統括を務めた慶応大環境情報学部の田中浩也教授(46)は「資源の付加価値を高める、未来につながる再生技術を編み出すことができた」と語る。
デジタルデータによる物作りが専門の田中教授の研究室が、表彰台の製作計画に参加したのは2019年夏。デザインはエンブレム制作者の野老朝雄さん(52)が考案し、材料には全国のスーパーや企業などから集められた計24・5トンの廃プラスチックを使うことが既に決まっていた。
人が運べる軽さで、乗っても壊れない強度があり、複雑なデザインの表彰台を期限までに98台量産する。難問への答えが3Dプリンターだった。50代の野老さん、40代の田中教授に加え、研究室卒業生の平本知樹さん(34)、研究員の湯浅亮平さん(34)、現役学生の江口壮哉さん(23)と幅広い世代でチームを結成。一世一代の物作りが始まった。
「世界に出して恥ずかしくない物を作ろう」。田中教授らは、加工や染色に向かない廃プラに廃ガラスや顔料を加える工夫を重ね、強度と光沢を出すことに成功。98台分を構成する計約7000枚のパネルを、3Dプリンターを使いわずか20日間で成形した。
金型によるプレス加工に比べ、3Dプリンターには「材料を余さず使えてごみが出ない」「静かで省エネルギー」「複雑な形状の物も作れる」といった利点があり、突発的な計画変更にも素早く対応できるのが強み。田中教授は「選手が主役で表彰台はあくまで引き立て役」と控えめだが、壇上でメダリストが喜びをはじけさせる様子を毎日楽しみに見ているという。
目指すのは、資源をより価値あるものに作り替えて社会に戻す次世代リサイクルだ。田中教授はこうした概念を「リープ(跳躍)サイクル」と名付け、「3Dプリンターを使えば実現できると世界に示せた」と実感。「選手が練習に練習を重ねて成果を出すように、研究者もできるかどうか分からないことにどんどんチャレンジしていきたい」と力を込めた。