相次ぐ五輪選手へのSNSでの中傷、どう防ぐ
「見たくないのに」選手は涙、専門家「多角的な対策を」
東京五輪で表面化した、インターネット交流サイト(SNS)での選手への中傷問題。標的になった選手からは「見たくなくても目に入ってしまう」「我慢ならない」と悲痛な声が相次いでいる。選手がSNSを使う限り、被害は防ぎようがないのか。専門家は「社会全体での多角的な対策が必要だ」と訴える。
「周りに相談して、なんとか気持ちを保っていた」。体操の村上茉愛選手(24)は29日の個人総合決勝後、SNS中傷に苦しんでいたと告白。五輪期間中にも、攻撃的なコメントが付いた自身の投稿を削除したことがあったとし、「悲しかった」と涙をこぼした。
SNS問題に詳しい国際大グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は、ウェブ上で批判的投稿が殺到する「炎上」の参加者の割合を調べたところ、国内では平均して約7万人に1人だったとの調査結果を紹介。多くは正当な批判と中傷の区別がついていないといい、「中傷する人はごく一部でも、SNS利用者の分母が大きいため、大量の攻撃が届いてしまう。五輪のような世界的イベントでは、中傷の数はさらに増える」と話す。
各国では、侮辱罪や名誉毀損(きそん)罪の厳罰化、SNS事業者に悪質投稿への対応義務や違反時の罰則金を課す法整備などが進められているが、山口准教授は「言論統制や表現の自由の萎縮につながるリスクもある」とみる。米ツイッター社が、攻撃的な投稿をしようとした人に再考を促す文章を表示する実験をしたところ、3分の1が表現を修正し、その後も中傷が減ったといい、「こうした他者を尊重する気持ちを思い出させる仕組みづくりが大切だ」と述べた。
選手への中傷をめぐっては、加藤勝信官房長官や丸川珠代五輪相が「あってはならない」などと批判。大会組織委員会の高谷正哲スポークスパーソンも「非常に心を痛める事案」と言及したが、組織委として声明を出す予定は今のところないとしている。山口准教授は「選手側にも、中傷に対する法的手続きやメンタル面でのサポートが必要。批判と中傷は異なるという認識を社会全体で共有していくべきだ」と話した。