震災体験を強さに、つかみ取った感謝の「銅」


バドミントン「ワタガシ」ペア、富岡一中から変わらぬ絆

震災体験を強さに、つかみ取った感謝の「銅」

バドミントン混合ダブルス3位決定戦で銅メダルを獲得し、笑顔の渡辺勇大(右)、東野有紗両選手ペア=30日、武蔵野の森総合スポーツプラザ(時事)

 バドミントン混合ダブルスの「ワタガシ」こと渡辺勇大選手(24)、東野有紗選手(24)ペア=日本ユニシス=。中高を通じた先輩後輩の2人は、東日本大震災を体験し、競技への思いを一層強くした。3位決定戦に勝利後の第一声は「ありがとう」。確かな絆を武器に初の銅メダルをつかみ取った。

 故郷を離れ富岡一中(福島県富岡町)に入学した2人を地震が襲ったのは、体育館での練習準備中。渡辺選手は真っ暗な学校で、東野選手は迎えに来た母洋美さん(58)の車の中で眠れぬ一夜を過ごした。不安の中を避難した東野選手は、「私たち死ぬかもしれない」とチームメートとメールでやりとりしていた。町は福島第1原発事故の警戒区域となり、部員はばらばらになった。

 厳しい状況の中、東野選手は出身地の北海道に戻り練習を続けた。渡辺選手は、父雅和さん(53)の勤務先の実業団チームから練習場所と用具の提供を受けた。「いかに自分が周りに支えられていたか、思い知った」と当時を振り返る。

 部活動が再開できたのは5月になってから。設備の整った学校には戻れず、福島県猪苗代市で共同生活しながら練習することに。東野選手は避難時の恐怖からためらったが、最後は自分で戻ることを決めた。

 富岡一中はその8月、全国大会で男女6種目のうち5種目を制覇。東野選手は女子ダブルスで初めて全国の頂点に立った。部旗に刻む「富岡魂」は、逆境に負けない心の象徴だ。

 ペア結成はその翌年。初めから息がぴったりで、大会でいきなり優勝した。東野選手が一つ上だが、気負わず意見を言い合えた。進学や就職で所属が変わっても絆は切れず、世界への道を一緒に歩んできた。

 新型コロナウイルス禍も「震災の経験で気持ちを強く持てた」(東野選手)ことで乗り越えた。「福島の人に元気と勇気を」。自分たちのプレーで願いをかなえた。