体操の橋本選手、廃校から五輪の舞台で「金」
山岸コーチが築いた「虎の穴」、夢に描いた初の五輪選手
体操男子個人総合で新王者が誕生した。団体で逆転の銀メダルの立役者となった橋本大輝選手(19)=順天堂大=。ジュニア時代は廃校の体育館で練習、高校で世界を体感し、五輪が1年延期された間にエースに急成長した。大舞台で圧巻の演技を披露し、金メダルに輝いた。
橋本選手が小中学生時代に所属した佐原ジュニア体操クラブは、千葉県香取市にある廃校となった沢小学校の体育館が拠点。山岸信行コーチ(64)が苦労して器具を集め、自治体と掛け合って築いた「虎の穴」だ。
山岸さんに橋本選手を指導した記憶はない。手本は一流選手の演技が詰まったビデオ。覚えているのは「いつも頭をいっぱいにして体育館に入ってくる」姿で、口にしたことと言えば「つま先伸ばせ、美しく」だけだという。
練習でけがをしないかと、橋本選手を抑えるのに腐心した。記憶にあるのが中学3年の全国大会。前日のゆか練習で足首を骨折しながら、出場を強行した。個人総合は最下位だったが、鉄棒狙いで着地を決めた。「気持ちもセンス、努力もセンス。その総合力で価値が決まる」。クラブ初の五輪選手誕生を夢に描いた。
市立船橋高校に進むと、1年時は補欠だったが、真綿が水を吸うように技を習得。神田真司前監督(62)は「抑えられていた気持ちが一気に噴き出した」と話す。
高3で世界選手権に出場。ただ、団体は首位争いに絡めず3位に。同行した大竹秀一監督(43)は「最後のゆかを完璧にやってもロシア、中国に追い付けない中、チームを鼓舞する気迫で着地を全て止めにいった」と話す。結果的にミスしたが、それでいい。悔し涙を流す橋本選手に「五輪の舞台を想像しよう」と声を掛けた。
「廃校から世界、そして五輪へ」。山岸さんの口癖だ。指導歴40年にして夢が実現した。教え子は押しも押されもせぬエース。体操にささげた人生が報われた。