柔道の新井千鶴、「勝ちたい」覚悟を示す金


「地道にこつこつ」ついに頂点に、16分41秒の激闘を制す

柔道の新井千鶴、「勝ちたい」覚悟を示す金

女子70㌔級を制し、金メダルを手に笑顔の新井千鶴=28日、日本武道館(時事)

柔道の新井千鶴、「勝ちたい」覚悟を示す金

女子70㌔級決勝で攻める新井千鶴(左)=28日、日本武道館(時事)

 胸に去来するのは、栄光より苦しんだ日々。女子70キロ級の新井が「地道にこつこつ」と表現する柔道人生は、ついに五輪の頂点にたどり着いた。

 準決勝がヤマ場だった。相手は、五輪前最後の実戦となった5月の国際大会で敗れたタイマゾワ。延長に入っても競り合いは延々と続いた。

 得意の内股は決め切れず、抑え込みに入っても逃げられた。「気持ちだけは引かない。ここで絶対諦めない」。気力とスタミナの限りを尽くした試合を終わらせたのは、開始から16分41秒。鬼気迫る送り襟絞めで失神させた。決勝はポレレスから小外刈りで技ありを奪い快勝した。

 高校卒業後に実業団の強豪、三井住友海上へ。当初は先輩たちに歯が立たず、同じ階級で五輪を連覇した同社の上野雅恵監督は「毎日つらそうで、ついていくのに必死だった」と思い起こす。

 ハイレベルな稽古に食らいつき、前回リオデジャネイロ五輪の代表争いに絡んだが、田知本遥に最終選考会で敗れた。そのライバルは五輪で金メダル。「振り返ると(自分は)覚悟を持てていなかったのかな」と認める。

 リオ翌年から世界選手権を2連覇。しかし、成績は不安定になっていった。内股を軸とした本格派の柔道は、裏を返せば「癖がなく、シンプルすぎる」と自認。周囲の徹底マークに苦しんだ。

 完璧主義者は五輪が近づくにつれて神経質になりながら、自分と向き合った。「無駄な経験は何一つない」、「勝ちたいという軸はぶらさない」。迷いを断ち切った覚悟が、何度でも技を掛け、心を折らずに激闘を制した姿に表れていた。