柔道男子の永瀬貴規、気持ちを前に出し泥臭く金
挫折を乗り越え人間的に成長、リオ銅の雪辱を果たす
世界王者として臨んだ5年前のリオデジャネイロ五輪は「臆病になった」。大舞台の雰囲気にのまれていた。男子81キロ級の永瀬はその反省から「気持ちを前面に出して、泥臭くても勝ちにいく」。その誓い通り、持ち味の粘り強さを存分に発揮。不完全燃焼の銅を金に変えた瞬間、じわじわと涙がこみ上げた。
世界ランキングは13位で、上位8人のシード外。「すべて強豪選手。初戦から決勝戦のつもりで戦った」。5試合中で3試合は反則負けに後がない指導二つを受け、延長も4度あった。
準決勝から世界選手権優勝経験者との連戦。決勝は2018年覇者のモレイ。永瀬の背中を持ちにくるなど密着戦を挑んできたが、長い手足を生かした組み手で圧力を分散し、勝機を待った。延長1分43秒、足車で横転させて技ありを奪った。
母校筑波大の岡田弘隆総監督は過去に永瀬と組み合った際、「吸い込まれていく」感覚を覚えた。組み手の技術は「うまさと強さと柔らかさ」があり、独特のものだという。男子73キロ級で五輪連覇を遂げた所属先の先輩、大野将平は「永瀬は全階級、誰とやっても強い。何か分からない強さがある」と評した。
スピード自慢やパワー型など個性豊かな強豪が集う81キロ級。リオ以降、永瀬本人が意識してきたのは「どんな選手とも戦っていける対応力」。時には軽量級の選手とも稽古を重ねてきた。
17年の世界選手権で右膝に大けがをし、メスを入れた。復帰当初は結果を残せず、落ち込んだ。苦境からはい上がって復調。五輪切符争いで重要な意味を持つ19年世界選手権の代表を外れながら、出場権をつかんだのは永瀬だけだ。
金メダルの要因は「挫折を経験することで、競技力だけでなく人間的に成長できたから」と言った。リオで欠けていた精神面のたくましさも身に付けた実力者。機は熟していた。