「最強」が見詰めた弱さ、稽古で我慢を貫く
弱点を消す地道な積み重ねで、大野将平が再び金メダル
柔道創始国の日本で、2大会以上連続の五輪制覇を達成したのは、過去に男女各3人しかいなかった。男子73キロ級の大野は「各国の選手は死に物狂いでくる。言葉以上に2連覇の難しさを感じているし、自分自身が一番大変さを理解している」。慢心なく準備を整え、期待に応えた。
圧巻の内容で制した前回リオデジャネイロ五輪後、大学院の論文執筆のため一時期実戦を離れた。モーションキャプチャーを用いて、得意技の大外刈りのメカニズムを研究した。復帰後も着実に実績を積み上げ、2年前の世界選手権ではすべて一本勝ちで3度目の優勝。国際柔道連盟からは、階級を超えた最強選手の意味がある「パウンド・フォー・パウンド」と紹介される。
リオから東京へ進化する自らのテーマは、「圧倒的」から「絶対的」に。その中で見詰め続けてきたのは、自分の弱さだった。「防衛的悲観主義」と大野は言う。「どうしたら自分が負けるのかだけを考える、一番我慢が強いられる稽古を5年間やってきた」。弱点を消す地道な積み重ねをしてきた自負は強い。
コロナ禍の自粛期間には、海外勢に最後に屈した自らの試合の映像を見直した。韓国選手に出足払いで一本を取られた2014年世界選手権の4回戦。「この負けが自分も足払いを覚えるきっかけになり、一本を取れる得意技の一つになった」。そんな前向きな発見もあった。
中高時代を過ごした柔道の名門私塾、講道学舎の恩師、持田治也さんは「入門時の実力は10人中8番目ぐらい。自分の弱点と向き合い続けたのが大野」と話す。芽が出るまでもがいた時期も、「最強」と言われる今もこれからも、取り組む姿勢の根幹は変わらない。
「2度目の集大成」と位置付けた大会で再び金。予想通りという見方もされるだろう。だがそれは、王者が誰よりも自分を律してきたからこそつかんだ輝きだった。連覇を果たして言った。「今後も自分を倒す稽古を続けてやっていきたい」