福島の住民ら「被災地の現状が伝わらない」
無観客で競技開始、「復興五輪」は後回し、被災者不在に
ソフトボール開幕戦の会場となった福島県営あづま球場(福島市)。球場内から聞こえる選手の声と場内アナウンスが、閑散とした会場周辺に響いた。新型コロナウイルスの影響で無観客が急きょ決まり、チケット販売の窓口は残されたまま。ジョギングで訪れた近所の男性(72)は「人がいなくては盛り上がらないね」と落胆した。五輪中止を訴え、プラカードを掲げる人の姿もあった。
同県須賀川市の自営業、内山美佐子さん(62)は、県内で都市ボランティアを務める予定だった。「福島の今を知ってほしかったから、無観客は本当に残念で悔しい」と肩を落とす。観光客を案内するため、2年半前から準備を重ねてきたという。それでも、「開催してもらえることは歓迎したい。競技は家で応援する」と前を向いた。
東京電力福島第1原発事故で古里の浪江町から本宮市に避難している小野田利治さん(59)は、「コロナがひどくなるので、正直無観客になってほっとしている」と話す。「復興五輪がいつの間にか後回しのようになっていた。被災地の状況は伝わらないのでは」と淡々と語った。
福島市にある旅館のおかみ、小水洋子さん(60)によると、無観客決定前には団体の問い合わせがあったが、現在はほぼ予約がない状況という。「県外からのお客さんを期待していたが、コロナでは仕方ない」と悲しげに語った。
福島の無観客開催を決めた内堀雅雄知事は21日の試合観戦後、「苦渋の決断だった。メディアを通じて、福島の復興に向けた歩みが発信されることに期待する」と述べた。