第165回芥川賞に石沢麻依さんと李琴峰さん
直木賞は佐藤究さんと澤田瞳子さん、各賞2作は10年ぶり
第165回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が14日、東京・築地の新喜楽で開かれ、芥川賞に石沢麻依さん(41)の「貝に続く場所にて」(群像6月号)と李琴峰さん(31)の「彼岸花が咲く島」(文学界3月号)が選ばれた。直木賞は、佐藤究さん(43)の「テスカトリポカ」(KADOKAWA)と澤田瞳子さん(43)の「星落ちて、なお」(文芸春秋)に決まった。各賞で2作が選ばれるのは第144回以来、約10年ぶり。
石沢さんは初候補で受賞。作品は、コロナ禍で封鎖されたドイツの学術都市が舞台。東日本大震災で被災したが津波には遭わなかった主人公の前に、行方不明になったはずの知人男性が現れる。
李さんは候補2回目で受賞。台湾出身で、日本語を母語としない芥川賞作家は2008年受賞の楊逸さん(中国出身)以来2人目。作品はノロと呼ばれる女性たちが統治し、「ニホン語」と「女(じょ)語」が話される島が舞台。ある日、記憶を失った少女が流れ着き、言語や慣習、歴史を学んでいく。
芥川賞選考委員の松浦寿輝さんは、石沢さんの「考え抜かれた文章」、李さんの「野心的冒険性」などが評価されたと説明した。
佐藤さんは初候補で受賞。山本周五郎賞の受賞作で、直木賞とのダブル受賞は04年の熊谷達也さん以来2人目。作品はメキシコと日本を舞台に、臓器密売と壮絶な暴力を描いた犯罪ミステリー。資本主義が生んだ現代の凶悪犯罪と、古代の信仰が交錯する。
澤田さんは候補5回目で受賞。作品は幕末から明治中期に活躍した浮世絵師、河鍋暁斎の娘とよ(暁翠)を主人公に据えた時代小説。死後も偉大な父の存在に翻弄(ほんろう)されつつ、とよは懸命に河鍋一門を支える。
選考委員の林真理子さんは、佐藤さんの「ディテールの細かさ」、澤田さんの「文章力の確かさ」などを理由に挙げた。
贈呈式は8月下旬に東京都内で行われ、正賞の時計と副賞100万円が贈られる。