池田小事件から20年、「悲劇を繰り返させない」


児童8人が殺害、学校の安全を訴え講演活動を続ける遺族

池田小事件から20年、「悲劇を繰り返させない」

大阪教育大付属池田小学校で起きた児童殺傷事件で犠牲になった本郷優希さんの誕生日に、父紀宏さんが用意したアップルパイと優希さんの写真=3月1日(紀宏さん提供・時事)

 「二度と同じ悲劇を繰り返させない」。児童8人が殺害され、15人が重軽傷を負った大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)の殺傷事件は8日で、発生から20年。犠牲となった小学2年本郷優希さん=当時(7)=の父紀宏さん(56)は「娘の生きた証しになる」との一念で、安全対策の重要性と命の尊さを訴える講演活動を続けている。

 いつもと変わらない朝だった。「行ってきます」と家を出た長女を見送り、「気を付けて」と声を掛けた。仕事のため、たまたま同小の近くを車で走っているときに携帯電話が鳴った。すぐに駆け付けたが娘は見つからず、ようやく会えたのは正午すぎの病院の中。娘の死を告げられ、「人間として壊れていく感じがした」と振り返る。

 致命傷を負いながら必死で39メートル逃げ、力尽きたわが子。逮捕された宅間守元死刑囚=04年刑執行=が公判で語った「門が閉まっていたら、乗り越えてまでやっていない」との言葉が頭から離れなかった。

 「二度と事件を起こさないことが優希の願い。犯罪者を生まない社会をつくることが娘が生きた証しになる」。思い起こすたび胸が張り裂けそうになるが、事件から3年後、学校や自治体関係者ら向けの講演を始めた。不審者を校内に入れないよう、地域と協力して安全対策に取り組む必要性を訴え、命の尊さを伝える活動は約150回に上る。

 優希さんの写真を肌身離さず持ち歩き、3月の誕生日に用意したアップルパイには、迎えるはずだった「27歳」を示すろうそくに火をともした紀宏さん。「節目はない。これからも優希と一緒にいるという思いだけ」と話した。