京アニ事件、青葉真司被告の主治医が振り返る
懸命に治療、望む謝罪、「ひたすら生かすこと考えた」
36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件で、全身に大やけどを負った青葉真司被告(43)殺人罪などで起訴の逮捕から約1年。当時の主治医が時事通信の取材に応じ、「ひたすら生かすことを考えた」と約4カ月間の治療を振り返り、「(事件への)謝罪の言葉を聞きたい」と思いを明かした。
「正直、厳しいと思った」。鳥取大病院救命救急センターの上田敬博教授(49)は、2019年7月の事件当時に勤務していた近畿大病院で、青葉被告を診察した時のことをこう振り返る。やけどは全身の93%に広がり、体温が34度を下回るほど生命の危機が迫っていた。
治療は困難を極めた。医師ら十数人がチームとなり、ウエストポーチを巻いた青葉被告の腰の部分に辛うじて残っていた約8平方センチメートルの皮膚を培養。全身に移植手術を繰り返した。「事件を迷宮入りさせないためにも助けたいと思った」。容体は一進一退を繰り返し、治療経過が気になり夜も2時間おきに目が覚めた。
事件から1カ月後、青葉被告は意識を取り戻し、同年9月に入ると声も出せるようになった。「あ」と第一声を発した後、「二度と声が出ないかと思った」と一晩中泣いていたという。生への執着をうかがわせたその姿に、上田教授は「死ぬつもりはなかったと感じた」と話した。
青葉被告は容体回復につれ、よく聴く音楽バンドについて語り、「うどん、カレー、コーラが好き」と好物を明かすように。偏食が激しく、病院の食事に手を付けないこともあったが、看護師が献身的に見守り、「出されたものはすべて食べられるようになった」と上田教授は振り返った。
入院中、言葉遣いは常に丁寧で「ありがとうございます」と看護師に感謝を伝えることも少なくなかった青葉被告に、上田教授は「逃げるな。(自分に)向き合え」と言い聞かせた。青葉被告も「こんな自分にぶつかってくれる人がいる」と話すようになったという。
約4カ月間の治療にめどがつき、別の病院への転院を伝えられると、青葉被告は驚いたように「心の準備ができていない」と話した。「もう自暴自棄になったらあかんで」と上田教授が声を掛けると「分かりました。すみませんでした」と答えた。かつて「どうせ死刑になる」と語ったこともあったが、上田教授は「謝罪の言葉を出し、自分のしたことに真摯(しんし)に向き合ってほしい」と力強いまなざしで語った。