世界はジャングルの秩序 中東の父子鷹はどうする

山田寛

 1991年1月17日、米軍などが、クウェート侵攻中のイラクへの空爆を開始、湾岸戦争が始まった。ブッシュ(父)米大統領は、「侵攻は絶対許せない。今や新世界秩序が進行しているのだ」と強調した。東西冷戦が終結しそうな中、中東の無法退治で新世界秩序ができる、と考えたのだろう。

 戦争は43日で決着し、翌92年に政治学者F・フクヤマが論文「歴史の終わり」で、「強権国家は崩壊。イデオロギー論争は決着した」と結論した。

 93年にハンチントン・ハーバード大教授が「新世界秩序の中では、7~8の主要文明の衝突が最も深刻な脅威だ。中華、イスラム両文明はその危険が高い」と論じた。

 あれから4半世紀。2人の予測はかなり当たってもいるが、超えられてもいる。

 新年早々、イスラム・スンニ派大国のサウジアラビアは、シーア派の高位聖職者らを大量処刑し、両派の骨肉の争いを燃え上がらせた。

 アジアの3代目は自称水爆実験を敢行、荒野のわが道を猛進する。強権的大国の一つは、人工島に飛行機を続々乗り入れ、もう一つは、ウクライナ領一部併合を既成事実化し、中東での影響力増大を図る。IS(「イスラム国」)など過激派は、各地で陰惨な聖戦テロ、虐殺を繰り返す。

 新世界秩序より、大小の猛獣が力を振るうジャングルの秩序がはびこっている。

 半情報鎖国のサウジアラビアには、私も湾岸戦争直前、ブッシュ大統領が同国北東部の派遣米軍司令部へ激励旅行した際に、同行して訪れただけだ。基地に集まった米野戦服の群、群。この国と米国の連携の印が目に焼き付いた。

 78年、駐在していたバンコクで、アジア競技大会が開かれた。弱くて不人気のサウジ・チームは、タイの子らに20バーツ(約400円)札をばらまき、サクラ応援団を狩り集めた。85年にアフリカ飢餓取材で、サハラ砂漠南縁を回った。一緒になったサウジの写真家は、住民の老女を撮影するのに、普段通りの上半身裸姿では国内で公表できないからと、老女に無理やり布を巻きつけていた。

 金満ニュースや、レイプされても女性の方が厳罰に処されがちといった、人権軽視のコチコチ原理主義ニュースばかり目立ってきた、独特の国である。

 改革も皆無ではなく、女性の選挙参加も先月の市町村選挙で初めて認められ、女性議員14人(計2106議員中)が誕生した。昨年死去したファハド前国王の遺産だ。しかし、サルマン新国王は強硬保守派。“優柔な”宗教警察長官や、女性最高ポストにいた教育次官らは即更迭し、息子のムハンマド氏を国防相・第2皇太子に抜擢した。そして父子はイランへの対抗心とイランにすり寄るオバマ米国への不信を強めた。世界第4の軍事支出大国で、イエメン内戦介入連合軍も主導する。核開発に踏み切る可能性も取りざたされだした。

 過激派同様の厳格な原理主義を掲げ、世界各地に過激派を輸出したと批判されるサウジが、米国と共にISを空爆する矛盾は、なお続けられるのか。強硬派父子は、中東と世界のジャングルの秩序を一層強めるだけか、ブレーキもかけられるのか。

 フランシスコ・ローマ法王は一昨年秋以来、「第3次世界大戦状態」に言及している。ショック療法の警鐘かもしれない。だが、「世界同時多発戦争・テロ時代」、ネット戦も含む「新型世界的戦争時代」到来と言っても、過言ではなかろう。

 ジャングルをよく見ず、「戦争法制反対」だけ叫ぶ日本人は、別世界の住人かもしれない。

(元嘉悦大学教授)