若者を北方領土返還運動の担い手に 北海道総務部北方領土対策本部北方領土対策局長 田尻忠三氏に聞く

きょう34回目の「北方領土の日」

 いまだかつて一度も外国の領土になったことのない北方領土。ロシア(旧ソ連)の不法占拠は68年におよぶ。日本固有の領土である北方領土を追い出された元島民は、一日も早い帰郷を待ち望んでいる。北方領土返還に向けて行政の立場から、これまでの取り組みなどを北海道総務部北方領土対策本部の田尻忠三北方領土対策局長に聞いた。
(札幌支局・湯朝 肇)

道民世論をさらに喚起

400 ――領土問題は国家間の交渉事ですが、地方レベルで北海道は北方領土返還要求運動に対して、これまで具体的にどのような取り組みをしてきたのでしょうか。

 北方領土問題は、領土という国の主権に関わる外交上の問題として戦後わが国に残された重要な課題であります。領土問題の解決には、長きにわたる外交交渉の積み重ねや国民世論の結集・高揚が必要ですが、加えて元島民の支援、北方四島に隣接する地域の振興などが不可欠です。これらは基本的に国が主体となって促進すべきものですが、道としても四島が北海道の行政区域にあること、また、島を追われた元島民の4分の3近くが居住していることなどから、道政上の重要な課題として位置づけており、必要な対策を積極的に推進していきたいと考えています。

 具体的な取り組みの一つとして、広報啓発活動があります。昭和41年から毎年8月を「北方領土返還要求運動強調月間」とし関係機関と連携して、「啓発街頭行進」や「北方領土返還要求北海道・東北国民大会」(第3金曜日)を実施していますし、根室市では「北方領土ノサップ岬マラソン大会」を開催しています。また、2月は「北方領土の日特別啓発期間」としてさっぽろ雪まつり会場で「北方領土フェスティバル」を実施し、期間中は道内各地で展示・署名活動を行っています。

 元島民への援護事業としては、昭和39年から北方領土への墓参事業を開始し、また平成11年から元島民やその家族を対象にした自由訪問事業を後押ししてきました。特に墓参はこれまで98回、延べ人数で4300人が訪問しています。

 ――長い間にわたって北方領土問題に取り組み、元島民や隣接地域を支援してきたと思いますが、実際に北方領土への道民および国民の関心は高まったと感じていますか。

 昨年9月に北方領土問題をテーマにした道民の意識調査を行いました。20歳以上の個人を対象に1900人に用紙を郵送し、942人の回答を得ました。それをみると、北方領土問題に対する道民の認知度、関心は残念ながら「高い」とは言えない結果になっていました。特に20代の若者の意識が全般に低いのが気がかりです。北方領土問題は一時、返還運動が盛り上がった時期がありました。その後、日露間の交渉が停滞したこともあり、国民世論としての盛り上がりはいまひとつと感じています。従って、今後はこうした状況を打開するためにも、道民世論をさらに喚起する方策をつくり上げていくことが課題になっていると思います。

 ――北方領土返還運動では四島との交流事業としてビザ(査証)なし交流を進めていますが、これについてはいかがでしょうか。

 北方四島とのビザなし交流は平成4年から始まりました。これまで日本側からは延べ約1万1400人が訪問し、四島からは約8200人が訪れています。合計して2万人近い人が行き来していることになります。日本からの参加対象は元島民とその家族、返還運動関係者、教育関係者や青少年、さらに地震、生態系などの専門家となっていますが、双方の信頼醸成に役立っていると思います。高橋はるみ知事も一昨年に色丹島を訪れました。

 ――2月8日に安倍首相とプーチン大統領の首脳会談が行われるということですが、道として政府に要望することはありますか。

 安倍首相とプーチン大統領との間で一日も早い問題解決を図っていただくことが道民の願いでもありますから、両首脳の信頼関係を築いた上で、リーダーシップのもとで、打開策を具体的に示してほしいと思います。また、先ほども述べましたが、根室管内の地域振興に対してしっかりとした支援をお願いしたい。ロシア(旧ソ連)に不法占拠されなければ、四島を含めた根室管内の産業は確実に発展しました。それが不法占拠によって阻害されたわけですから、政府には財政支援を含めて地域振興支援をお願いしたいと思います。

 ――道としての今後の取り組みをお聞かせ下さい。

 1世といわれる約1万7000人いた元島民は、現在約7000人にまで減りました。その方々の平均年齢も80歳近くになっています。今後、返還運動の担い手は2世、3世になっていくことは間違いありません。従って、道としてもそれに呼応する形で若い世代に向けて、若い人が返還要求運動に参画できるように普及啓発事業を展開していく必要があり、学校の教育学習で北方領土問題を積極的に取り入れてもらうことが大事だと考えています。そこで関係団体とともに小・中学生向けに北方領土問題学習資料として副読本を作成し 社会科や総合学習の授業で使っていただくよう教育委員会を通じて小中学校に要請しています。

 また、2月22日には北方領土問題を取り扱ったアニメ「ジョバンニの島」が封切りになります。一般社団法人日本音楽事業者協会創立50周年記念作品として作られた実話に基づいたアニメ映画です。多くの方に観(み)ていただきたいと思います。

 それから、昨年の領土交渉の再スタートを契機として、北方領土に対する理解と関心を深めていただくために、北方領土返還要求運動のシンボルの花である「千島桜」のシールやステッカーを作製し、企業や道民に配布しています。今後も、こうした取り組みを続け、さらなる啓蒙(けいもう)・啓発を展開していきたいと考えています。